校長室より

校長室より

学校9月入学制

学校9月入学制

 日本の学校制度では、1年は4月に始まり、3月で終了します。また、日本の国家予算の編成と執行も同様です。国の予算会計年度については、もともと稲の収穫が終わり、その米が換金される時期に合わせたことからくるとも言われています。江戸時代の話が現在まで残り続けているのでしょうか。

 さて、学校9月入学制度についてです。2020年春、コロナ渦による学校休校が続く中で、休校の遅れを取り戻すために、学事暦を半年後ろにずらす、この制度の導入についての議論が始まったかのように思われます。当時の萩生田文部科学大臣も導入に理解を示し、当時の安倍首相も「前広に判断する」と発言しました。しかし、全国の小中高校で実施するには多くの困難な点が指摘され、結局この制度の導入は見送られました。

 実は日本における9月入学制度の導入については、1980年代から議論がなされてきました。一番大きなメリットは世界中の学事暦は、ほとんどの国が9月に始まり、8月に終わることです。特に大学としては、留学等において諸外国と同じ学事暦にすることが望まれてきました。1987年の臨時教育審議会答申では「秋季入学制に移行すべく、関連する諸条件の整備に努める」と要請されました。しかし、入口と出口の問題を解消できる方策が難しく、実現はされません。2011年には東京大学で「秋入学構想」が盛り上がりました。これはグローバル化が進む中、東京大学としても危機感があったために議論がなされましたが、これまた実現はされませんでした。これらの歴史を振り返ると、今回の2020年春の議論はコロナ渦で大変だということだけで、これまで実施を拒んできた要因を解消しないままの議論であり、思いつきの案であったことがよく分かります。

 大学だけでも9月入学を実施したいと考えている人たちは数多くいると思います。しかし、高校を卒業して4月から8月までの期間をどうするのか、8月に卒業したら、就職はいつになるのか、就職活動の期間はどうするのか等、解決しなければならない課題は山積みです。「課題が多いから現状維持で行こう」これでは何も変わりません。コロナ渦で大学の「グローバル化」「オンライン化」が進む中、日本だけが取り残されていくのでしょうか。学校が秋に始まっても、飽きないと思いますが。

 

京アニ事件の容疑者が全身火傷から回復した際に治療に当たった医師の話

京アニ事件の容疑者が全身火傷から回復した際に治療に当たった医師の話

 2019年7月18日に起こった、京都アニメーション放火殺人事件は36人の死亡者と35人の負傷者を出した衝撃的な事件でした。放火に携わったと思われる容疑者自身も全身の93%に及ぶ大火傷を負い、生死の淵をさまよいましたが、一命をとりとめました。その際に治療に当たった医師が、当時近畿大学付属病院で救急医療を担当していたA医師です。

 火傷はその程度によって、Ⅰ度Ⅱ度Ⅲ度と分かれるようです。Ⅰ度は、日焼けしたときも該当します。Ⅲ度は一番表面の表皮だけではなく、その奥にある真皮まで到達した場合です。今回の容疑者は当然Ⅲ度でしたが、たまたまウェストポーチをつけていた部分で、8cm四方の皮膚だけが健常な状態で残っていました。その部分を切り取り、培養して何枚にも増やしてから火傷の部分に移植手術をしました。また、皮膚がない状態なので、感染症や敗血症になる可能性もあります。血液中の水分が身体の外へ出て行くことが続くと、血圧が下がったり、腎臓に血液が回らなくなると、腎不全を起こしたりもするようです。A医師も最初は「助からない」と思ったようですが、必死の治療が続き、命は救われました。

 最近のことですから、数多くの批判の声があったようです。「そんな凶悪犯人の命を救うことに値打ちがあるのか」「どうせ死刑になるだけだ」「高額の治療費は誰が払うのか」等です。A医師は「目の前にいる患者を助けるのが僕らの仕事だ」ということでした。彼は大学2年生の時に「阪神淡路大震災」を経験し、2005年にはJR福知山線脱線事故の負傷者の治療を担当し、京アニ事件を担当した後、2020年4月からは鳥取大学医学部附属病院救命救急センター教授として勤務をされています。彼の言葉です。

 「救急医療にスーパースターはいらない。味方が失敗したら仲間がカバーする組織が一番強い」

 「救急医療」の部分を入れ替えると、多くの組織運営に当てはまるフレーズだと思います。毎日目先の事だけにキュウキュウとしているようではダメですね。

 

集合知の限界

集合知の限界

 多くの人が知恵を持ち合って構成する知を「集合知」と言い、往々にして一人一人の個人の判断よりよい結果をもたらすことが知られています。この集団的な合意形成の有効性を実体験するために、用いられるものの一つが「NASAゲーム」です。このゲームでは、月に不時着した宇宙飛行士が、320キロ離れた母船へ月面を移動しなければならないという設定で、そのとき宇宙船からどのアイテムを持って行くか、15の中から重要度を順位付けよ、というゲームです。アイテムとしては、マッチの入った箱、宇宙食、ナイロン製ロープ、落下傘の布、ソーラー発電の携帯用暖房器、ピストル二丁、粉ミルク、酸素ボンベ、月から見た星座表、救命いかだ、磁石コンパス、水、信号用照明弾、注射器入りの救急箱、ソーラー発電式FM送受信機の15個です。生徒の皆さんも、一度考えてみて下さいね。

    まず参加者各自が順位付けを行い、その後グループ(4人から8人くらい)で話し合って結論を導きます。そうすると、個人一人で考えていた結果よりも、集団で話し合って導き出した答えの方が有効であることが多いです。例えば、月面での行動ですから、酸素ボンベや、水の優先順位が高いことは明らかです。逆に、月面では酸素や、地磁気がないので、マッチや磁石は役に立ちません。

    さて、ここからが本題です。このゲームでは、模範解答が示されていて、ゲームにおいての勝ち負け、適切な結果を導き出せたかどうかが、よく分かる仕組みになっています。この集合知が有効なのは、「正解」がある場合に限られるということです。特に集合知の代表であるインターネットのウィキペディア等に頼ると、ほとんどの問いに対する解答が出てきます。しかし世の中にある問題は解答があるものばかりではありません。例えば「日本の首都はどこに移転すべきか」「原子力発電所は新たに建造すべきか」等、解のない問題では集合知が正解とは限りません。何でもネットに聞けば答えが出ると思っていると、大きな間違いを犯すことにもなりかねません。世の中には「正解」がない問題の方が多いですからね。正解を得るためには、政界に出て、コロナ渦の中でもパーティーを盛会にしなければいけません。

 

東京藝術大学

最後の秘境 東京藝大

 二宮敦人さんが書いた「最後の秘境 東京藝大」という本が、平成28年に出版されましたが、平成31年に新潮文庫として発売されました。今回はこの本から紹介します。

 皆さんの周りに「東京大学の卒業生」はいますか。なかなか珍しい存在かもしれませんが、ひょっとしているかもしれません。理由は東京大学の一学年の定員が三千人くらいいるからです。では「東京藝大の卒業生」はどうでしょうか。一学年の募集人数は美術学部が234人、音楽学部が237人ですから、合わせて五百人足らず。少ないはずです。

 もともとは東京美術学校、東京音楽学校と別の学校が一緒になって東京藝術大学ができました。ですので今でも上野駅を背にして、左側は美術学部「美校(びこう)」と呼ばれ、右側は音楽学部「音校(おんこう)」と呼ばれています。それぞれの学部で多くの特徴がありますが、その中の学科によっても、藝大の常識が世間の常識とはかけ離れていることがたくさんあって、非常に興味深いです。

①     藝大の生協(大学内にある生活協同組合)には、ガスマスクを売っている。

美校の彫刻科では、木や金属、粘土の他に、樹脂加工の授業があり、その際には有毒ガスが発生するので、学生は皆ガスマスクを購入する。

②     音校に合格した学生は、まず自分の写真を撮る。

自分が商品なので、ドレスを着て、楽器を抱え、にっこりと笑う宣材写真が必要である。

③     口笛を吹いて、藝大に合格した学生がいる。

二次試験の「自己表現」で、ヴィットーリオ・モンティ作曲の「チャルダッシュ」を口笛で吹いて合格した学生は、2014年の「国際口笛大会」成人男性部門のグランドチャンピオンであった。

④     工芸科漆芸(しつげい)専攻は、漆(うるし)塗りを学ぶため、かぶれて手が荒れている学生が多い。工芸科でバレーボール大会をすると、漆芸専攻の学生が触ったボールで、他の専攻の学生の手がかぶれてしまった。

⑤     声楽科の学生には、のどあめが必需品。プロポリス、ボイスケア、龍角散が多いが、最終兵器は漢方薬の「響声破笛丸(きょうせいはてきがん)」です。

藝術を極めるためには、お金も時間もかかり、何より根気と体力が必要なのがよく分かりました。「ローマは一日にしてならず」ということです。テーマを考え、キーマカレーでも食べながら、マンマ・ミーアを鑑賞しましょう。

 

クオータ制度

クオータ制度

 2021年3月末に世界経済フォーラムが発表したジェンダーギャップ指数で、日本は120位と、前年の121位からほとんど変わりませんでした。このジェンダーギャップは、男女格差を表す指数で、とりわけ指導的立場に就く女性の割合が比較的大きく反映されるという特質を持ちます。

①     9.9%  衆議院に占める女性議員の率 2020年 世界166位

②     30.2%  町村議会の中で、女性議員がゼロである議会の率 2019年

③     26人 全国の市区町村1721自治体のうち、女性首長の数 2020年

このように、日本では依然として大きな男女格差が残っているのが現状です。そこで「クオータ制度」の出番です。実は私も「クオータ制度」というのは、「女性の割合をクオーター(四分の一)に増やすシステム」と誤解していました。クオータ(quota)は「割り当て」という意味で、クオーター(quarter) 四分の一のことではありません。クオータとは、属性による不均衡を是正するために、少数派に対して一定割合・数をあらかじめ設定する手法です。アメリカでは大学入試において、少数の人種であるとされてきた黒人やアジア系、ヒスパニック系に対してクオータ制度が導入されてきました。議員を選ぶ選挙において、一定割合を女性に割り当てるジェンダー・クオータ制度は、129カ国に導入されていて、世界中の約三分の二の数になります。

一方、クオータ制度の導入に反対する意見もあります。①クオータは女性に下駄をはかせる逆差別だ ②女性政治家が少ないのは、女性が望まないからだ ③クオータは民主主義的な選出と矛盾するものだ 等です。私はこれらの意見は男性からの一方的な考えに基づくもののように思います。実際に女性の議員の数は圧倒的に少ないのですから、一度クオータ制度の導入を考えてみるべきだと思っています。クオータの導入には、赤ちゃんをセオータまま、ウオータを飲みながら考えてみましょう。

 

赤米

赤米

 普通に精米したお米の色は白いです。ところが、大昔は赤色や黒色、緑色のお米がありました。赤米は縄文時代に古代中国から伝わったとされ、玄米の色が赤褐色で、果皮・種皮部にタンニン系の赤色色素を含んでいます。五分づき精米するとピンク色に、普通に精米すると白米と変わらない色になります。赤飯の元となったという説もあります。

 一般的には生命力が強いのですが、米の性質にばらつきがあったり、収量が少なかったりしたため、明治時代以降はほとんど生産されなくなりました。ところが最近、白米に比べてタンパク質やビタミン、ミネラル等を多く含んでいることが明らかになり、健康食として注目を集めています。食べるときは、赤米単独ではなく、普通の白米に少し混ぜて炊くのが良いようです。また、お酒や菓子、麺類等に加工されて販売もされています。

 赤米は「あかごめ」や「あかまい」と読むようですが、曖昧な商いをして、お見舞いに良いかもしれません。

 

YOASOBI

YOASOBI

 生徒の皆さんは、当然よく知っているYOASOBIです。Ayaseとikuraによる2人組の音楽ユニットですが、配信する(CDという形式ではほとんど発表されていない)楽曲がどれも大ヒットです。2019年に結成し、小説を音楽にするプロジェクトから誕生しました。「夜に駆ける」「ハルジオン」「たぶん」「群青」「もう少しだけ」「三原色」どの曲も個性的で、一度聞くと忘れられない感じがします。私のようなおじさん達がYOASOBIを知ったのは、2020年12月の紅白歌合戦で「夜に駆ける」を歌ってからでしょうか。現在ではユニクロがコラボしてTシャツを販売したりもしています。

    今回、Kiss FMで8月1日に放送された「日本郵便 SUNDAY’S POST」という番組を聴いていると、その番組内で「レターソングプロジェクト」という企画で、小学校6年生の「はつね」さんからの手紙をもとに、YOASOBIが「ラブレター」という楽曲を完成し、8月9日から配信が始まることが分かりました。この「はつね」さんが書いた手紙が非常に感動的で「私は苦しいときも楽しいときも音楽を聴いてきた。音楽さん、ありがとう」という内容なのですが、ほぼ忠実に内容を生かした「ラブレター」がまた大変素晴らしい曲にできあがっています。この曲も大ヒット間違いなしだと思います。合唱や、吹奏楽等の課題曲に採用されるかもしれません。皆さんも夜遊びをしながら、YOASOBIの「ラブレター」という楽曲を聴いてみて下さい。

 

ベルベル人

ベルベル人

 7世紀にアラブ人がやってくる前から、北アフリカ地域に住んでいた先住民族がベルベル人です。ベルベルという名前は、ギリシャ語で「わけのわからない言葉を話す者」を意味するバルバロイに由来するそうです。北アフリカ地域は、古代から多くの国家からの侵略を受け、イスラム化やフランスによる植民地化などの歴史を経て、ベルベル人たちは多くの苦難を乗り越えてきました。有名人では、サッカー元フランス代表のジダンやベンゼマもベルベル人です。良くない出来事があった女優の沢尻エリカさんですが、彼女の母親も国籍はフランスでしたがベルベル人だそうです。

 「アムドゥヤズ ン ドゥシャル ワル イスファルジュ シャ」

    ベルベル語のことわざで「村の歌い手は評価が低い」という意味です。これは聖書にある「預言者は自分の故郷では歓迎されない(身近なものはありがたくない)」という意味と同じです。「幸せの青い鳥を探しに出かけたが、実は自宅にいた鳥が青い鳥だった」という話にも通じるところがあります。自分の身近なところにあるものを、もう一度見直してみましょう。「帯に短し、襷に長し」では役に立ちませんが。

 

 

 

忙中閑あり

忙中閑あり

 「忙中閑あり」(ぼうちゅうかんあり)忙しい中にも、ちょっとゆっくりするヒマな時間もあるよね、ということわざです。8月になり、忙しい生徒の皆さんや先生方も「ちょっと一息」を感じているでしょうか。同じような言葉をいくつか考えてみましょう。毎日暑い日が続いていますが、「暑中涼あり」暑いけれども、ほっと涼しさを感じる時があります。エアコンの効いた建物に入ったとき、アイスクリームやかき氷を食べるとき、山に登って木陰で涼しい風が吹いてきたときなど。「夜寝苦しい中昼寝あり」これは言葉通りで、夜はなかなかぐっすりと眠れないのであれば、昼間短時間の「パワーナップ」で疲れを取ることも大切です。

 「壷中天あり」これは中国の後漢書に記載されている「世俗生活の中にある独自の別天地」のことです。「費長房という人は市場の役人だったが、ある日役所の窓から見える通りで店を出している薬売りの老人が、夕暮れに店をたたむと、店先の壷の中に入っていくのを目撃した。翌日、費長房が老人に昨日のことを尋ねると、老人は実は自分が仙人であることを明かし「見られたのなら、仕方ない」と壷の中に入れてくれた。壷の中には珍味を並べた別天地があり、酒を酌んで大いに楽しみを尽くしたという」壷の中は小さく狭いように見えますが、その中には天のように広い世界が存在する、ということで、「井の中の蛙、大海を知らず」の反対ですね。こんな壷があるのなら、私もボツにならずに、壷にはまりたい。

 

 

 

温室効果ガス削減、やる気あるの

温室効果ガス削減、やる気あるの

 地球温暖化対策計画の政府原案が発表されました。管首相が表明した2030年度の排出量を2013年度比で46%削減する目標を実現するための案です。この原案を見て「なんじゃ、これは」と思った人は私だけではないはずです。2013年の部門別二酸化炭素排出量は、産業部門が4億6300万トン、家庭部門が2億800万トンであるのに、削減率は産業部門が37%減で、家庭部門が66%減を目標にしています。二酸化炭素を排出する部門を5つに分けたときに、一番排出量が多い産業部門の削減率が少なくて、排出量の少ない家庭部門の削減率が大きいのです。全体を削減するときに、多い分野から削っていく方が効果が高いということは、小学生にも理解できる理屈です。産業界からの反発を恐れ、家庭部門では表だった反対の声は小さいだろうという忖度が働いた結果だと思います。これを見ると、政府は本気で排出量を減らす気がないと思えてしまいます。

 世界中で気候変動、自然災害が数多く報告され、温暖化対策は待ったなしの状況にありながら、この期に及んでも「日本の産業を守る」ことを優先しています。こんな忖度は、選択せずに、洗濯してしまわないといけません。