校長室より

京アニ事件の容疑者が全身火傷から回復した際に治療に当たった医師の話

京アニ事件の容疑者が全身火傷から回復した際に治療に当たった医師の話

 2019年7月18日に起こった、京都アニメーション放火殺人事件は36人の死亡者と35人の負傷者を出した衝撃的な事件でした。放火に携わったと思われる容疑者自身も全身の93%に及ぶ大火傷を負い、生死の淵をさまよいましたが、一命をとりとめました。その際に治療に当たった医師が、当時近畿大学付属病院で救急医療を担当していたA医師です。

 火傷はその程度によって、Ⅰ度Ⅱ度Ⅲ度と分かれるようです。Ⅰ度は、日焼けしたときも該当します。Ⅲ度は一番表面の表皮だけではなく、その奥にある真皮まで到達した場合です。今回の容疑者は当然Ⅲ度でしたが、たまたまウェストポーチをつけていた部分で、8cm四方の皮膚だけが健常な状態で残っていました。その部分を切り取り、培養して何枚にも増やしてから火傷の部分に移植手術をしました。また、皮膚がない状態なので、感染症や敗血症になる可能性もあります。血液中の水分が身体の外へ出て行くことが続くと、血圧が下がったり、腎臓に血液が回らなくなると、腎不全を起こしたりもするようです。A医師も最初は「助からない」と思ったようですが、必死の治療が続き、命は救われました。

 最近のことですから、数多くの批判の声があったようです。「そんな凶悪犯人の命を救うことに値打ちがあるのか」「どうせ死刑になるだけだ」「高額の治療費は誰が払うのか」等です。A医師は「目の前にいる患者を助けるのが僕らの仕事だ」ということでした。彼は大学2年生の時に「阪神淡路大震災」を経験し、2005年にはJR福知山線脱線事故の負傷者の治療を担当し、京アニ事件を担当した後、2020年4月からは鳥取大学医学部附属病院救命救急センター教授として勤務をされています。彼の言葉です。

 「救急医療にスーパースターはいらない。味方が失敗したら仲間がカバーする組織が一番強い」

 「救急医療」の部分を入れ替えると、多くの組織運営に当てはまるフレーズだと思います。毎日目先の事だけにキュウキュウとしているようではダメですね。