校長室より

2022年6月の記事一覧

キーウから遠く離れて

キーウから遠く離れて 

 歌シリーズが続きます。それくらい「私もこの戦争をやめさせることに、何か貢献できないだろうか」と感じているミュージシャンがたくさんいるということです。さだまさしさんの「キーウから遠く離れて」という曲です。歌詞の一部を紹介します。

 わたしは君を撃たないけれど

 戦車の前に立ち塞がるでしょう

 ポケット一杯に花の種を詰めて

 大きく両手を広げて

 わたしが撃たれても

 その後にわたしが続くでしょう

 そしてその場所には

 きっと花が咲くでしょう

 色とりどりに

 さださんがテレビ番組に出演され、この曲を披露するときの話です。

 今度の戦争ってライブで中継があるじゃないですか。ウクライナの老婦人がロシア兵に向かって「帰りなさい!」って抗議しているシーンが流れたんですよ。その人が「あんた、ポケットにひまわりの種、入れておきなさい。あんたが死んだ後、私がその花を眺めてやるから」っておっしゃった。それが胸にこたえましてね。命の捉え方っていろいろあるな、と思って。

 僕は音楽家なので、銃は撃たない、と決めているんですね。じゃ、銃を撃たない僕がどうやって大切な人を守れるんだろうって随分考えたんです。方法は一つしか思い浮かばなかったですね。それは「戦争を始めさせない」っていうことしかないと思うんです。そのためにやっぱり音楽があり、人の心があり、言葉があると思います。きっと言葉は届くと信じてます。音楽っていうのはきっとそういうものだと思うんですよ。痛みだとか悲しみだとか喜びだとか、そういうものを声を出して共感する、元気に変えていく、音楽にはそういう力があると信じています。

 さださんは今年70歳(!)、現役のシンガーソングライターとして活躍中です。70歳は「古希」と言います。「古来希なり(こらいまれなり これだけ長生きをするのは珍しいことだ)」私も古希に向かって、飽きの来ないように、息長く、先を見据えて、好きなように、時を重ねたいと思います。

 

数字のマジック

数字のマジック 

 健康ドリンクか、栄養ドリンクかは忘れましたが、昔こんな宣伝文句がありました。

 「有効成分○○○、1000ミリグラム配合」

これは実は「有効成分○○○、1グラム配合」と同じことですよね。ではなぜ1グラムではなくて、1000ミリグラムを使ったのでしょうか。人間の耳には、1より1000の方が多いように聞こえるからに他なりません。私はこの数字のマジックは、限りなく詐欺に近いものがあるように思います。

 これは、ロシアがウクライナに攻めてきたから、日本を守るために「防衛費を引き上げて、GDPの2%にしよう」という話と似たところがあると思っています。これまで日本という国は、防衛費はだいたいGDPの1%程度を保ってきました。人間の耳には、1%を2%に引き上げることは、小さな金額に聞こえてしまいがちです。しかし、お金の数え方は金額と予算に対する割合で行うことが正しいと思います。

 そこで財務省のホームページより、金額と割合を見てみましょう。22年度一般会計歳出総額107兆6000億円、防衛費5兆4000億円、予算に対する割合は5.0%となります。この金額を2倍にするということは、10兆8000億円、予算に対する割合では10%になります。当然、小さな金額ではありません。

 世界では、軍事費の大きさを対GDP比で数えていることは事実です。また、日本の防衛費の数え方と、NATOの軍事費の数え方は一致していません。NATOの予算では、退役軍人年金や沿岸警備隊の経費、国連平和維持活動(PKO)拠出金等を軍事費にカウントしていますが、日本の防衛費では除外されています。これも見かけ上、防衛費を小さく見せようという忖度があるからなのかもしれません。

 ドリンクの有効成分は大きく見せよう、日本の防衛費は小さく見せよう、数字のマジックに引っかかってはいけません。数字は、冬至の日に、掃除をしながら、工事をして、法事の用事を済ませてしまいます。

 

大河への道

大河への道 

 「シン・ウルトラマン」に続き、今回も映画「大河への道」の紹介です。落語家の立川志の輔さんが、千葉県香取市にある「伊能忠敬(いのう ただたか)記念館」を訪れて、伊能忠敬が製作した「大日本沿海輿地全図(だいにほんえんかいよちぜんず 輿地というのは地球もしくは世界のことです)」を見て感動して作った創作落語「伊能忠敬物語 大河への道」を原作として製作された、コメディタッチの現代劇でもあり時代劇の映画です。

 生徒の皆さんもそうだと思いますが、私も「大日本沿海輿地全図」は伊能忠敬が製作したとばかり思っていました。しかし伊能忠敬は1818年に74歳で亡くなっており、地図の完成は伊能組の多くの人たちの努力により、その3年後の1921年になりました。伊能忠敬は村の名主を務めた後、隠居していましたが、50歳(その当時の平均寿命を超えている?)から測量や天体観測を学び、地図の製作を始めました。まさに福澤諭吉の言葉にあるような「一身にして二生を経る」という人生です。この地図は現在の宇宙からの人工衛星写真と比べても、ほとんど一致するほどの正確さです。幕末に開国後の1861年にイギリス海軍が、日本沿岸の測量を強行しようとした際、伊能忠敬の地図を見て、その優秀さに驚いて測量を中止したという程の出来映えでした。

 さて、映画の方は中井貴一、松山ケンイチ、北川景子その他の俳優達が、令和の今の時代と、江戸時代に伊能忠敬が亡くなってから地図を完成する時代との一人二役で物語が進みます。笑いあり、涙ありの素晴らしい作品になっています。チョイ役(と言うと怒られそうですが)で出てくる俳優さん達も、素晴らしい活躍でした。いやー、映画って本当に絵画のようで、大河ドラマになるような名画が多いですね。

 

時代遅れのRock'n'Roll Band

時代遅れのRock'n'Roll Band 

 私のようなおじさん達には、夢のような豪華メンバー達による楽曲「時代遅れのRock'n'Roll Band」が配信されました。桑田佳祐、佐野元春、世良公則、Char、野口五郎の66歳、同級生の5人組です。

 2022年2月に桑田、世良が顔を合わせ、新型コロナウイルスの脅威、全国各地で起きている自然災害、ロシアによるウクライナ侵攻などの話題が出る中で「同級生で協調して、今の時代に向けた発信ができないか」というアイデアをもとに、桑田作詞作曲、5人でボーカル、ギターのこの楽曲ができました。5月21日にラジオ番組「桑田佳祐のやさしい夜遊び」で初オンエアされ、6月6日にYouTubeで公開されました。少し長くなりますが、歌詞を載せます。

 

この頃「平和」という文字が

朧げに霞んで見えるんだ

意味さえ虚ろに響く

世の中を嘆くその前に

知らないそぶりをする前に

素直に声を上げたらいい

旅路の果ては空遠く

まだ夢叶わずに

回り道を繰り返して

One Day Someday

いつの間にか

ドラマみたいに時代は変わったよ

目の前の出来事を

共に受け止めて

歌え Rock’n’Roll Band!!

我々が居なくなったって

この世の日常は何ひとつ

変わりはしないだろう

そんなちっぽけな者同士

お互いのイイとこ持ち寄って

明日に向かって

Twist and Shout, C’mon!!

…Shake It Up, Baby!!

子供の命を全力で

大人が守ること

それが自由という名の誇りさ

No More No War

悲しみの

黒い雲が地球を覆うけど

力の弱い者が

夢見ることさえ

拒むと言うのか?

One Day Someday

いつになれば

矛盾だらけの競争(レース)は終わるんだろう?

この世に大切な

ひとりひとりが居て

歌え Rock’n’Roll Band!!

闇を照らす

ダサい Rock’n’Roll Band!!

 

 歌詞だけ見ると、いわゆる反戦歌、プロテストソングのようですが、桑田さん特有の音楽にのせると、普通(?)に聞こえます。皆さんも是非YouTube等で聞いてみてください。ロックのおじさん達は、キックして、クックして、コックして、ノックして永遠に不滅です。

 

二刀流

二刀流

 今「二刀流」と言えば、アメリカメジャーリーグの大谷翔平選手の、ピッチャーとバッターの両方へのチャレンジが1番最初に出てくると思います。「二足のわらじ」という言葉もありますが、昔の日本ではあまり良いイメージではなかったように思います。一つの道を果てしなく究めることの方が、素晴らしいという感じでしょうか。

 しかし昔にも非常に高いレベルで「二刀流」を極めた人もいました。1946年生まれのきたやまおさむ(本名 北山修)さんです。きたやまさんといえば、1967年にザ・フォーク・クルセイダーズというバンドに所属し「帰ってきたヨッバライ」が300万枚近い大ヒットになりました。当時としては全く新しい「何や、これ」みたいな音楽でした。その後も「戦争を知らない子どもたち」の作詞をするなど、作詞家、音楽家として活躍しました。その頃、彼は京都府立医科大学の学生でもありました。きたやまさんは音楽活動をする時は平仮名の「きたやまおさむ」を用い、心療内科、精神科の医師として活動するときは漢字の「北山修」を用いました。

 「『裏』は大事です。『楽屋』と言ってもいいのですが、すべて表だと人はつらくなります。外に向けた顔から素顔の自分に戻り、自分を保つ場所が、誰しも必要です。私にとっては大学でした。私が、不特定多数とやりとりする表では平仮名の名前を使い、裏で漢字の表記を用いるのも根っこは同じです」

 きたやまさんの現在の肩書きは作詞家、精神科医、白鴎大学長と「三刀流」になっています。

 「人生ってそんなに面白いもんじゃない。実はみんな迷い、やるせない悲しさ、むなしさを抱える。だから、学生には遊びや余裕を大事にと伝えます。試行錯誤するモラトリアムの時間も必要でしょう。学長としては授業に来なくていいとは言えませんが」

 きたやまさんほど高いレベルで、複数の事をやり遂げることは難しいと思いますが、私も「おやじギャグラー」「理科の散歩道執筆者」「県立高校の教員」の三刀流(?)で頑張っています。

 

アンパンマン

アンパンマン

 生徒の皆さんはアンパンマンを知っていますよね。超有名なキャラクターですから、知らない人はいないと思います。

 「やなせたかし」さん(1919~2013)作・絵の「あんぱんまん」がフレーベル館の月刊絵本「キンダーおはなしえほん」に掲載されたのは1973年のことですから、来年で50周年ということになります。

 「砂漠の真ん中で倒れていた旅人や、森で迷った子どもに、自分の顔を食べさせる。顔がなくなったあんぱんまんは、ぱんづくりのおじさん(最初は『ジャムおじさん』という名前がなかった)に新しい顔をつくってもらい、再び『おなかのすいたひと』を助けるために空へ飛び立つ」というお話しでした。

 発表された当初は「顔を食べさせるなんて残酷だ」「図書館に置くべきではない」「こんな絵本はもう描かないでください」などと言われ、反響はあまり良くなかったようです。

 それでも1988年にテレビアニメとして放送されると、全国的な大ヒットとなります。テーマ曲の「アンパンマンのマーチ」はみんな歌えると思います。フレーベル館から出版されたアンパンマンの絵本は、約580タイトルにのぼり、累計部数は8千万を超えるそうです。

 アンパンマンには数多くのキャラクターが登場しますが、覚えやすいネーミングでもあります。悪者のはずの、ばいきんまんも憎めない存在です。アンパンマンは戦いもしますが「分け与える」ことが主になっていることが素晴らしいと思います。

 アンパンマンも調べてみると、歴史があり、私が知らなかったことがたくさん出てきました。物事を探究すると、阪急電車が運休して緊急事態になり、サンキューと言われそうです。

 

シジュウカラの声

シジュウカラの声

 言葉を用いて、他者と会話できるのは人間ホモ・サピエンスだけでしょうか。例えば、イルカやサルは会話をしていそうな感じはしますよね。京都大学白眉センター特定助教の鈴木俊貴さんは、シジュウカラという鳥は、鳴き声でお互いに会話ができることを約10年かけて確認しました。どうやったらそんなことが分かるのでしょうか。

 鈴木さんは1年の大半を軽井沢で過ごし、シジュウカラを観察するうちに、鳴き声から20以上の単語を持つことを見つけました。例えば「ヂヂヂヂッ」はエサ等を見つけたから「集まれ」という意味です。「ピーツピッ」と鳴くと、周囲をキョロキョロとし始めるので「警戒せよ」という意味です。これだけなら一つの鳴き声が一つの意味を持つ、でおしまいですが、私が感動したのはこの次の研究です。「ピーツピッ、ヂヂヂヂッ」と鳴くと「警戒せよ、集まれ」の意味ですから、シジュウカラは複数で群がり、モズを追い払いました。ところが語順を変えて「ヂヂヂヂッ、ピーツピッ」という声を聞かせても、何の反応も示しませんでした。シジュウカラは二つの単語の語順を認識しているわけです。

 カラスを見た親鳥は「ピーツピッ」と鳴くと、「警戒せよ」ということですからヒナ達は鳴き声を静めてうずくまることが分かりました。アオダイショウというヘビが巣箱に迫ってきたとき、親鳥が「ジャージャーッ」と鳴くと、巣箱の中にいたヒナが一斉に飛び出してきました。これだけでは「ジャージャーッ」という鳴き声が「ヘビだ」なのか「巣から逃げろ」の意味なのかがわかりません。鈴木さんは親鳥達に「ジャージャーッ」という音を聞かせると、まず地面を見て、それで見当たらなければ、木の穴や茂みまで探しに行くことに気づきました。そして音と同時に、木を這うヘビのように木の枝を動かしてみました。「ヂヂヂヂッ」や「ピーツピッ、ヂヂヂヂッ」の時には木の枝には見向きもしなかったシジュウカラは「ジャージャーッ」の時だけ1メートル以内にまで近づいて、木の枝を確認しました。この実験の結果「ジャージャーッ」という鳴き声が「ヘビ」という単語であり、ヘビそのものをイメージしていることが分かりました。

 鈴木さんはシジュウカラだけではなく、他の動物たちも言葉を用いて会話しているのではないか、と考え「動物言語学」という学問を立ち上げようとしています。人間ももう少し言葉を大事にしないと、波止場から海に落ちて始終カラになってしまいそうです。

 

新しい世界の資源地図

新しい世界の資源地図

 さて、今回はダニエル・ヤーギンが書いた「新しい世界の資源地図」の紹介です。ヤーギンは、1947年ロサンゼルス生まれの経済アナリストで、特にエネルギー問題に詳しく、1992年に書いた「石油の世紀」でピューリッツアー賞を受賞していますが、この年に湾岸戦争が始まりました。今回新作の「新しい世界の資源地図」の日本語訳が2022年2月10日に出版されましたが、その2週間後にロシアがウクライナに侵攻しています。日本経済新聞の書評は「不吉な著者である」という言葉で始まっています。

 500ページを超える書物なので、読了するのには骨が折れましたが、骨折はしていません。最近流行の地政学的視点から気候変動とエネルギー革命を鋭く分析した一冊になっています。全体は6部で構成されています。

1「米国の新しい地図」 アメリカはシェールオイルとシェールガスの「発見」によって、自国の燃料をまかなう以上に、エネルギー輸出国になった。石油の三大輸出国がサウジアラビア、ロシア、アメリカになったことの影響が大変大きい。

2「ロシアの地図」 石油と天然ガスを商品にして、プーチン大統領の野望がある。ウクライナに対する圧力をかけたい。(ヤーギンがこの本を書いた時点では、まだ戦争にはなっていないが、いつ開戦しても不思議ではないことが分かる)

3「中国の地図」 南シナ海を自国のものとし、一帯一路で市場とエネルギーを確保したい。

4「中東の地図」 石油と天然ガスの一大産地だが、イスラム教のシーア派イランと、スンニ派サウジアラビアの覇権争いの行方が見えない。

5「自動車の地図」 内燃機関の自動車の未来はない。電気自動車、自動運転車、ライドヘイリング(ウーバーなどが提供する、自動車による送迎サービス)の時代になる。

6「気候の地図」 化石燃料から再生可能エネルギーへの転換が進む。水素エネルギーの利用と、太陽光、風力発電がどれくらい進むか。

 例えば、アメリカでシェールオイルがなければ、アメリカはエネルギー確保のために、中東やロシアともっと友好関係を深めねばならなかったし、電気自動車の普及が進めば、ロシアの石油は売れなくなるし、気候変動を避けるためには、中国のエネルギー消費はこのままではありえないし、数多くの出来事が互いに密接に絡み合っている状態だ、ということです。

 新しいマップ(地図)を作るには、モップを持って、ラップを歌ってタップを踊りながら、コップにホップを入れて、トップを目指さなくてはなりません。