校長室より

東京藝術大学

最後の秘境 東京藝大

 二宮敦人さんが書いた「最後の秘境 東京藝大」という本が、平成28年に出版されましたが、平成31年に新潮文庫として発売されました。今回はこの本から紹介します。

 皆さんの周りに「東京大学の卒業生」はいますか。なかなか珍しい存在かもしれませんが、ひょっとしているかもしれません。理由は東京大学の一学年の定員が三千人くらいいるからです。では「東京藝大の卒業生」はどうでしょうか。一学年の募集人数は美術学部が234人、音楽学部が237人ですから、合わせて五百人足らず。少ないはずです。

 もともとは東京美術学校、東京音楽学校と別の学校が一緒になって東京藝術大学ができました。ですので今でも上野駅を背にして、左側は美術学部「美校(びこう)」と呼ばれ、右側は音楽学部「音校(おんこう)」と呼ばれています。それぞれの学部で多くの特徴がありますが、その中の学科によっても、藝大の常識が世間の常識とはかけ離れていることがたくさんあって、非常に興味深いです。

①     藝大の生協(大学内にある生活協同組合)には、ガスマスクを売っている。

美校の彫刻科では、木や金属、粘土の他に、樹脂加工の授業があり、その際には有毒ガスが発生するので、学生は皆ガスマスクを購入する。

②     音校に合格した学生は、まず自分の写真を撮る。

自分が商品なので、ドレスを着て、楽器を抱え、にっこりと笑う宣材写真が必要である。

③     口笛を吹いて、藝大に合格した学生がいる。

二次試験の「自己表現」で、ヴィットーリオ・モンティ作曲の「チャルダッシュ」を口笛で吹いて合格した学生は、2014年の「国際口笛大会」成人男性部門のグランドチャンピオンであった。

④     工芸科漆芸(しつげい)専攻は、漆(うるし)塗りを学ぶため、かぶれて手が荒れている学生が多い。工芸科でバレーボール大会をすると、漆芸専攻の学生が触ったボールで、他の専攻の学生の手がかぶれてしまった。

⑤     声楽科の学生には、のどあめが必需品。プロポリス、ボイスケア、龍角散が多いが、最終兵器は漢方薬の「響声破笛丸(きょうせいはてきがん)」です。

藝術を極めるためには、お金も時間もかかり、何より根気と体力が必要なのがよく分かりました。「ローマは一日にしてならず」ということです。テーマを考え、キーマカレーでも食べながら、マンマ・ミーアを鑑賞しましょう。