校長室より

校長室より

国際連盟

国際連盟

 国際連盟は1918年に第一次世界大戦が終了し、パリ講和会議の後、1920年に発足しました。提唱したのは当時アメリカの大統領だったウッドロウ・ウィルソンですが、よく知られているように、アメリカはモンロー主義によって議会で否決され、結局国際連盟には参加しませんでした。

 国際連盟の仕事としては、①戦争の防止 ②委任統治、少数民族の保護 ③社会・経済的な取り組み の3つがあげられました。このうち、結果としては第二次世界大戦が起こってしまいましたから、①戦争の防止 が達成できませんでした。ということで、現在では国際連盟の値打ち(?)はなかった、という感じになってしまっています。果たしてそれでよいのでしょうか。

 国際連盟の本部はスイスのジュネーブに置かれましたが、発足当時は人も物もお金もなく、文字通り手探りの立ち上がりだったようです。ゼロから1を作り出すことは大変です。当分の間はホテルの部屋を借りて、本部にしていたそうです。当時の国際連盟本部は、現在では国際連合ジュネーブ事務局として利用されています。②と③については、かなりの成果があったものもあります。そして第二次世界大戦終了後の国際連合の立ち上げについては、国際連盟でのノウハウがかなりの部分に生かされています。限界はありましたが、当時の多くの人々の苦労が積み重ねられた国際連盟でした。連盟のために、混迷の中で懸命に運命を感じて、鮮明に本命に任命されるように頑張りました。

 

ないものねだりより、あるもの探し

ないものねだりより、あるもの探し

 斎藤幸平さんという学者がいます。大阪市立大学から東京大学へ転勤しましたが、2021年に出版した『人新世の「資本論」』という集英社新書が有名になり、新書大賞2021を受賞しました。マルクスの資本論を読み直して、環境問題や社会的資本の大切さを重視すべきだという内容でした。その斎藤さんが、日本各地の現場を取材して、毎日新聞に連載していた文章をまとめて「ぼくはウーバーで捻挫し、山でシカと闘い、水俣で泣いた」を出版しました。この本の中で、水俣を取材する中で出会った言葉が「ないものねだりより、あるもの探し」というものです。

 私たちは、日々の生活に追われて忙しくしていると、どうしても「ないものねだり」をしてしまう傾向があると思います。「もう少しお金があったら」「1日が25時間あったら」「私の成績が良くないのは先生のせいだ」等々。しかし、ないものねだりというのは、文字通り「ないもの」なのです。ないものをねだっても、あるものは生まれてきません。それよりも「あるもの」を探す方が、はるかに前向きだと言えます。あるいはもっと言うと、多くの人の力を借りながら、自分の力で「あるもの」を生み出していけば良いわけです。現在の世界には、閉塞感があるようにも思いますが、この本では多くの地域で、少しでも良い社会を作っていくために、努力している人たちの姿が描かれています。斎藤さんは学者であるからこそ、実際の現場から学び直しをしなければいけないと強調しています。

 学者が作者に代わって、役者として拍車をかけると、落車してしまうかもしれません。

 

詩人の言葉

詩人の言葉

 「朝、家を出てから、学校に着くまであったこと、見たことをきちんと言葉で伝えられればいい。詩を書くのはそのあとでいいでしょう」

 詩人の谷川俊太郎さんの言葉です。劇作家・演出家の平田オリザさんとの対談が済み、会場にいた若手教師が谷川さんに、今の子どもたちに最も大事な「国語の力」は何かと質問しました。自由な発想や想像力といった答えを誰もが想像しましたが、答えは冒頭の言葉でした。平田さんは「背筋が伸びる思いだった」と振り返ります。

 谷川俊太郎さんは、私たちが日常生活で用いるような平易な言葉を使って、鋭く奥行きのある詩を書かれる詩人です。その谷川さんの言葉ですから、余計に重みを感じます。何も特別難しい言葉を用いる必要はない、家から学校までにあったことや見たことを言葉で伝えられれば、そこから詩が生まれるまではほんのわずかだ、ということでしょうか。

 私はもちろん詩人ではなく、一人の高等学校の教員ですが、生徒や先生方に何かを伝えたいと思い、文章を書いたり、全校集会で話したり、歌ったり(!)しています。

 

キャット空中3回転

キャット空中3回転

 漫画ネタが続きますが「キャット空中3回転」と聞いて、これは「いなかっぺ大将」に出てくる「ニャンコ先生」の得意技だな、と分かる人はそんなに多くないと思います。漫画「いなかっぺ大将」は1967年から連載が始まった川崎のぼるさんの作品ですが、1970年からテレビアニメが放送され、小学生の私は熱心に見ていました。青森から上京してきた少年、大ちゃんこと風大左衛門(かぜ だいざえもん)は一流の柔道家を目指し、猫であるニャンコ先生と共に修行に励みますが、いつもずっこけてばかりです。私がテレビを見ていた当時には、気がつきませんでしたが、大ちゃんの声は「野沢雅子」、ニャンコ先生の声は「愛川欽也」、そして主題歌の「一つ人より力持ち~」を歌っていたのは「吉田よしみ」という名前になっていますが、実は「天童よしみ」でした。

 キャット空中3回転は、ニャンコ先生が柔道の技で投げられても、空中で3回転して足から着地するという技ですが、猫は空中に放り出されても必ず足から着地できるということは、よく知られています。今回この話を取り上げたのはノースカロライナ大学の「グレゴリー・J・グバー」という人が書いた「ネコひねり問題を超一流の科学者たちが全力で考えてみた」という本を読んだからです。猫が必ず足で着地するという現象をどのように理解するのかは、昔から研究されてきた出来事で、多くの著名な科学者たちが関わってきました。現在の高度な物理学を応用する必要もあるとのことです。この本を読んで(まず、読んだ人は大変少ない)、ニャンコ先生のキャット空中3回転を思い出した(この2つを結びつける人はもっと少ない)ので、これは希少価値にあふれていると思いました。この本でサイコーに面白かったのは、著者がこの本を読んで「どうか猫を高いところから落とさないでほしい」と訴えている所です。比較の対象としては、1975年に公開されたスティーブン・スピルバーグ監督の映画「ジョーズ」の大ヒットによって、世界中のサメが大量に殺されてしまったという出来事です。自分の著書をジョーズと比較するとは、何と上手な宣伝でしょうか。

 

ゴルゴ13

ゴルゴ13

 ゴルゴ13は、小学館が発行する「ビッグコミック」誌で、1968年から連載が始まった「さいとう・たかを」さんによるアクション劇画です。日本人あるいは日系と思われる国籍不明のスナイパー・自称デューク東郷が、何物にも支配されず、ただ己の掟にのみ従って、依頼された仕事を完璧に遂行していくストーリーです。単行本の刊行が207巻を超え、2021年にはギネス世界記録にも認定されました。

 作者のさいとう・たかをさんは2021年9月に84歳の生涯を閉じられましたが、「さいとう・プロダクション」によって現在も連載が継続しています。これだけ長く連載が続いていますから、ストーリーの基本は時代とともに変化してきました。アメリカのCIA(中央情報局)とソ連のKGB(国家保安委員会)の暗躍が柱だった1970年代、産業スパイものが目立つ90年代、デジタル万能社会を使いこなし、かつ我が道を征くゴルゴが際立った2000年代以降、という具合です。この作品を読んで、国際情勢を学んだ読者も大勢いると思います。

 私には、主人公のデューク東郷は、イギリスの007シリーズのジェームズ・ボンドと重なって見えることもあります。昔は平気だったと思いますが、最近はコンプライアンス重視の傾向があるので、画期的な新しい作品を生み出していくことが困難になっていくのかもしれません。とりあえず連載は続いていくようなので、今後の活躍に期待しましょう。ゴルゴ13の話題を、大阪の十三に行ったつもりで、1月13日に掲載できることを嬉しく思います。