校長室より

校長室より

紅白歌合戦

紅白歌合戦

 昔は、大晦日の夜はNHK紅白歌合戦を見るものと決まっていました。昨年の第二部の平均世帯視聴率は史上最低の34、3%でした。これでもかなり高いな、と思う人がいるかもしれませんが、1963年は81.4%だったということですから、時代の流れを感じます。年配の人はジャニーズ系や若い人の歌を知りません。若い人は演歌を聴きません。「二兎を追う者は一兎も得ず」という事で、年配の方にも、若者にも嫌われてしまったのかもしれません。紅白歌合戦の存在自体が問われているようです。

 昔は一家には一台のテレビしかなく、一家二世代、三世代にわたってテレビを見ていたものです。現在では、地上波のテレビは見ないという人も増えてきました。NetflixやYouTubeの方が面白いという訳です。テレビではなく、コンピュータのモニターやスマホを見ている人が多いです。不特定多数の大きな人口に対して、情報を発信していくことが時代遅れになりつつあるのでしょう。少数でもコアな人たちから賞賛される方を求めていく方が、時代に合っているのかもしれません。

 ところで、2022年のアカデミー賞のノミネート作品が発表されました。村上春樹さんの小説を原作にした、濱口竜介監督の「ドライブ・マイ・カー」が、日本映画として初めて作品賞にノミネートされたということで、話題になっています。他の作品を見ると、もちろん映画として公開された作品が多数ではありますが、NetflixやAmazonで配信された作品も並んでいます。そんな時代になっていくのですね。紅白歌合戦も、紅白饅頭に席を譲って、引退していくのかもしれません。

 

 

独裁者

独裁者

 生徒の皆さんは「独裁者」と聞くと、誰を想像しますか。歴史を振り返ると、また現在の世界を見渡しても「独裁者」であろう人物を何人も指摘できそうです。しかし過去史上最大の独裁者と言えば、やはりドイツの「ヒトラー」だと思います。今回、芝健介さんが書いた岩波新書の「ヒトラー」を読んだので、彼について考えてみます。

 知っている人は知っている事実なのですが、アードルフ・ヒトラーは実はオーストリアの生まれで、後にドイツ国籍を取得しました。画家を目指していましたが、第一次世界大戦では「通信兵」としてドイツ軍に従軍しています。第一次世界大戦終了後、ドイツは敗戦国となりますが、当時最も民主的と呼ばれた「ワイマール憲法」を制定し、復興に取り組みます。その中からヒトラーが率いる「ナチス党」は「合法的」に選挙で多数派を形成し、首相になっていきます。当時のドイツ国民は、困難な生活状況を何とか変革してくれないか、という希望をヒトラーとナチス党に託したのでした。

 現在ではヒトラーを「評価」する意見もわずかにあるようですが、彼の所業はとんでもない事ばかりです。第二次世界大戦を引き起こしたこと、ユダヤ人や障がい者等を虐殺したこと、自分に反抗した人々を処刑しまくったこと、数え上げればきりがありません。そしてこれだけの悪行を行えたのは、ヒトラー一人の力ではありません。取り巻き、側近である多くの人物によるヒトラーへの「忖度」が大きな影響を及ぼしました。あまりにも非人道的な政治が続いたので、ヒトラーは反対勢力から二度、暗殺されかけました。不幸なことに、二度とも失敗に終わってしまい、その後はドイツ国内に「反ヒトラー」勢力は表面的にはなくなってしまいました。

 ヒトラーはさすがに極端な例だとは思いますが、過去を振り返っても、現在においても、どこの国家においてもある意味「独裁者」が存在しています。権力を持つものにおもねり、すり寄り「忖度」を繰り返す人間は後を絶ちません。人間は歴史に学ばねばなりません。絶対権力は絶対的に腐敗すると決まっているのですから。ヒトラーは無視して、マヨラーやキティラーを大切にしましょう。

 

許したれよ

許したれよ

 年寄りあるある、の中には「昨日や一昨日の事は全く忘れているが、30年前の事は鮮明に覚えている」というものがあります。

 そう、あれは30年もっと前でしょうか。私が大学を卒業して、高等学校の教員として仕事を始めた頃、私の高校の同級生たちと集まったときの会話です。私の友人のF君は、私が高校生時代「あつしは、融通が利かない」ということを良く知っていました。「あつし、お前高校の先生するんやったら、たいがいのことは『許したれよ』。高校生なんか子供やねんから、間違えたり、失敗するもんやで」

 私はこのとき「何を言うてんねん。高校の教育現場はいろんな生徒がいて、大変やねんぞ」と反発したい気持ちになったことを覚えています。しかし、F君の言葉がずっと耳に残っていました。確かに高校生がすることで「いじめ」や「人のものを盗む」等、許されない出来事は、許されません。ただ「罪を憎んで、人を憎まず」という言葉もあります。何事にも寛容の心を持って接することの大切さを感じる日々があったことも事実です。また高校の先生が生徒を指導するという場面だけではなく、日常生活の中で、理不尽だと感じたり、憤りを感じたりすることがあります。そのときに怒りにまかせて発言したり、行動してしまうと、あまり良い結果にならないことが多いように思います。最近多発している社会的な事件についても、寛容の心がないものが多いです。

 多くの人々がもう少し「許したれよ」の気持ちを持てば、社会も変わっていくような気がします。観葉植物でも見ながら、寛容の心を持つことが肝要です。

 

正当防衛

正当防衛

 とてもやりきれない、悲しい出来事です。もちろん、他人を傷つけて、他人を巻き込んで自殺するという事件も許されません。それよりも、もっと気の毒だと思われるのは1月23日正午ごろ、栃木県のJR宇都宮線の車内で、優先座席に寝っ転がって加熱式タバコを吸っていた容疑者に「タバコをやめてくれませんか」と注意した男子高校生のことです。この容疑者は「ケンカを売られた」「正当防衛だ」と言っていると報道されていますが、男子高校生に土下座をさせ、暴行をはたらき、顔面骨折などの重傷を負わせたとされています。

 先に言っておきますが、もし私がその場に出くわしていたならば、多分「見て見ぬふり」をしてしまうと思います。人間誰しも自分の身が1番かわいいという事実は変えられません。評論家のようなきれい事を言うつもりはありませんが、その上で考えるべきことがたくさんあります。

 報道されている内容が全て事実であるかどうかは分かりませんが、ほぼ正しい内容であると仮定すると、多くのことが許されないことだと思います。

1 世の中に、禁煙である電車内の、しかも優先座席に寝っ転がって電子タバコを吸う人がいるということ

2 電車内にいた多くの人は、そんな人は「変わった人」「こわい人」だから関わり合いにならずにおこうと、見て見ぬふりをしていたこと

3 見るに見かねて、勇気を出して注意した高校生に「ケンカを売られた」「正当防衛(これは正当防衛とは言いません。過剰防衛です)」という理屈をつけて暴行したこと

4 周りにいた人たち(高校生や大人たち)の多くが、そのまま見て見ぬふりを続けたこと

5 新聞やテレビで報道されると「こういう『違う世界の人』とは関わらないようにしましょう」という感想が出てきたこと

そしてこの事件の教訓が「触らぬ神にたたりなし」ということであるならば、この国は終わってしまいます。世の中の人たちを分断していくことが正当であるとは思えません。勇気ある行動を取った高校生が、早く心の傷を癒やし、萎縮することなく、人生を切り開いていって欲しいと願うばかりです。今回は最後のギャグはやめておきます。

 

音楽の方から迎えに来てくれる

音楽の方から迎えに来てくれる

 歌手で俳優の福山雅治さんが、ラジオ番組でこんな話をしていました。

「曲がうまく完成できなくて、悩んでいたときにスタッフの人からこう言われた。『福山さん、大丈夫。そのうちに音楽の方から迎えに来てくれるから』この言葉で行き詰まっていた気持ちが癒やされた」

 頑張って努力していても、うまくいかないことがあります。いや、うまく行かないことの方が多いかもしれません。それでも諦めないで頑張っていると、向こうの方から手を差し伸べてくれるような感覚になることがあるようです。いわゆる「ゾーンに入る」という感覚でしょうか。

古くは日本のプロ野球の巨人の監督をされた、川上哲治選手が現役時代の言葉で有名なものがあります。

「ボールが止まって見える」

    スポーツ選手の世界では、何回か聞いたことがある話です。では私の場合は・・・

 昔の話で恐縮ですが、12月の全校集会で生徒の皆さんには話をしたのですが、私の大学受験の時の話です。もともと私は数学の成績は良かったのです。しかし入試前の模擬試験で、数学の点数が200点満点で26点しか取れなくて「おいおい、どうするねん」と落ち込んでいました。入試当日、数学の試験では全部で大きな問題が6問ありました。ぱっと見て、これはできそうだな、と思った2番だったか、3番だったかから始めました。短時間で1問仕上げることができて「よし、いけるかも」と落ち着いた覚えがあります。その後は制限時間の120分ギリギリまで集中して、4問完答することができました。当時の感覚では、6問中2問完答では苦しい、最低3問解きたい、4問できれば万々歳という感じでした。自分でも「ゾーンに入ったな」と感じた瞬間でした。

 必死に努力し続けていれば、向こうの方から迎えに来てくれる感じになる。こんな経験はあまりないことだとは思いますが、それくらい頑張れ、ということだと思います。「ゾーンに入る」という経験をするためには、ガーンとショックを受けて、ゴーンという鐘の音を聞いて、ドーンと構えておくことが必要かもしれません。