校長室より

校長室より

「正常」が狭められていく 

「正常」が狭められていく 

 私たちは体調が悪いとき、病院へ行って検査を受けますよね。検査の結果「どこも悪いところはないです」と言われることはよくあることです。でも何か病名をつけてもらいたかったり、薬を出して欲しかったりします。これは「正常」な事なのでしょうか。

 人類学者の磯野真穂さんが新聞に書いていました。彼女は大学院生の時に摂食障害の研究を始めました。当時、摂食障害は「拒食症」と「過食症」の大きく二つに分けられていました。ところが「摂食障害の種類がどんどん増えていく」事に気づき、大学院の教授にその理由を尋ねてみました。答えは次のような、びっくりするものでした。

 「新しい疾患を確立すると、それが学者の業績となるから」

 学者の業績のために、新しい疾患が生み出され、その病名をつけられた「患者」からは「自分の状態に病名が与えられ、ようやく肩の荷が下りた」と歓迎される。これは不幸になる人を誰もつくらない、八方良しの状態なのでしょうか。しかし磯野さんは「これはまずい」と考えました。

 「あるべき状態」から外れている人たちを発見し、その人たちに病名を与え、治療の枠組みを確立することは、「正常」の範囲を狭められていく作業に他ならない。そのよい例が、注意欠陥多動性障害(ADHD)である。アメリカの子どもたちの15%がADHDと診断され、その大半が投薬を受けている。この背後には、製薬会社の多額の投資、子どもを薬物で鎮め、願わくば学力向上を図りたい大人の思惑、不明瞭な診断基準があるのではないか。「落ち着きがないのが子ども、という考えはもう古い」としてしまって本当に良いのか。

 人間をどんどん分類していって「障害」が増え続けていくのは、本当に正しいことなのでしょうか。あらゆる事に対して「正常」な人は、本当にいるのでしょうか。色々なことを考えさせられました。正常は、水上で愛情を持って、形状に注意して、退場しないように、平常で最上の結果を求めましょう。

 

 

キーウから遠く離れて

キーウから遠く離れて 

 歌シリーズが続きます。それくらい「私もこの戦争をやめさせることに、何か貢献できないだろうか」と感じているミュージシャンがたくさんいるということです。さだまさしさんの「キーウから遠く離れて」という曲です。歌詞の一部を紹介します。

 わたしは君を撃たないけれど

 戦車の前に立ち塞がるでしょう

 ポケット一杯に花の種を詰めて

 大きく両手を広げて

 わたしが撃たれても

 その後にわたしが続くでしょう

 そしてその場所には

 きっと花が咲くでしょう

 色とりどりに

 さださんがテレビ番組に出演され、この曲を披露するときの話です。

 今度の戦争ってライブで中継があるじゃないですか。ウクライナの老婦人がロシア兵に向かって「帰りなさい!」って抗議しているシーンが流れたんですよ。その人が「あんた、ポケットにひまわりの種、入れておきなさい。あんたが死んだ後、私がその花を眺めてやるから」っておっしゃった。それが胸にこたえましてね。命の捉え方っていろいろあるな、と思って。

 僕は音楽家なので、銃は撃たない、と決めているんですね。じゃ、銃を撃たない僕がどうやって大切な人を守れるんだろうって随分考えたんです。方法は一つしか思い浮かばなかったですね。それは「戦争を始めさせない」っていうことしかないと思うんです。そのためにやっぱり音楽があり、人の心があり、言葉があると思います。きっと言葉は届くと信じてます。音楽っていうのはきっとそういうものだと思うんですよ。痛みだとか悲しみだとか喜びだとか、そういうものを声を出して共感する、元気に変えていく、音楽にはそういう力があると信じています。

 さださんは今年70歳(!)、現役のシンガーソングライターとして活躍中です。70歳は「古希」と言います。「古来希なり(こらいまれなり これだけ長生きをするのは珍しいことだ)」私も古希に向かって、飽きの来ないように、息長く、先を見据えて、好きなように、時を重ねたいと思います。

 

数字のマジック

数字のマジック 

 健康ドリンクか、栄養ドリンクかは忘れましたが、昔こんな宣伝文句がありました。

 「有効成分○○○、1000ミリグラム配合」

これは実は「有効成分○○○、1グラム配合」と同じことですよね。ではなぜ1グラムではなくて、1000ミリグラムを使ったのでしょうか。人間の耳には、1より1000の方が多いように聞こえるからに他なりません。私はこの数字のマジックは、限りなく詐欺に近いものがあるように思います。

 これは、ロシアがウクライナに攻めてきたから、日本を守るために「防衛費を引き上げて、GDPの2%にしよう」という話と似たところがあると思っています。これまで日本という国は、防衛費はだいたいGDPの1%程度を保ってきました。人間の耳には、1%を2%に引き上げることは、小さな金額に聞こえてしまいがちです。しかし、お金の数え方は金額と予算に対する割合で行うことが正しいと思います。

 そこで財務省のホームページより、金額と割合を見てみましょう。22年度一般会計歳出総額107兆6000億円、防衛費5兆4000億円、予算に対する割合は5.0%となります。この金額を2倍にするということは、10兆8000億円、予算に対する割合では10%になります。当然、小さな金額ではありません。

 世界では、軍事費の大きさを対GDP比で数えていることは事実です。また、日本の防衛費の数え方と、NATOの軍事費の数え方は一致していません。NATOの予算では、退役軍人年金や沿岸警備隊の経費、国連平和維持活動(PKO)拠出金等を軍事費にカウントしていますが、日本の防衛費では除外されています。これも見かけ上、防衛費を小さく見せようという忖度があるからなのかもしれません。

 ドリンクの有効成分は大きく見せよう、日本の防衛費は小さく見せよう、数字のマジックに引っかかってはいけません。数字は、冬至の日に、掃除をしながら、工事をして、法事の用事を済ませてしまいます。

 

大河への道

大河への道 

 「シン・ウルトラマン」に続き、今回も映画「大河への道」の紹介です。落語家の立川志の輔さんが、千葉県香取市にある「伊能忠敬(いのう ただたか)記念館」を訪れて、伊能忠敬が製作した「大日本沿海輿地全図(だいにほんえんかいよちぜんず 輿地というのは地球もしくは世界のことです)」を見て感動して作った創作落語「伊能忠敬物語 大河への道」を原作として製作された、コメディタッチの現代劇でもあり時代劇の映画です。

 生徒の皆さんもそうだと思いますが、私も「大日本沿海輿地全図」は伊能忠敬が製作したとばかり思っていました。しかし伊能忠敬は1818年に74歳で亡くなっており、地図の完成は伊能組の多くの人たちの努力により、その3年後の1921年になりました。伊能忠敬は村の名主を務めた後、隠居していましたが、50歳(その当時の平均寿命を超えている?)から測量や天体観測を学び、地図の製作を始めました。まさに福澤諭吉の言葉にあるような「一身にして二生を経る」という人生です。この地図は現在の宇宙からの人工衛星写真と比べても、ほとんど一致するほどの正確さです。幕末に開国後の1861年にイギリス海軍が、日本沿岸の測量を強行しようとした際、伊能忠敬の地図を見て、その優秀さに驚いて測量を中止したという程の出来映えでした。

 さて、映画の方は中井貴一、松山ケンイチ、北川景子その他の俳優達が、令和の今の時代と、江戸時代に伊能忠敬が亡くなってから地図を完成する時代との一人二役で物語が進みます。笑いあり、涙ありの素晴らしい作品になっています。チョイ役(と言うと怒られそうですが)で出てくる俳優さん達も、素晴らしい活躍でした。いやー、映画って本当に絵画のようで、大河ドラマになるような名画が多いですね。

 

時代遅れのRock'n'Roll Band

時代遅れのRock'n'Roll Band 

 私のようなおじさん達には、夢のような豪華メンバー達による楽曲「時代遅れのRock'n'Roll Band」が配信されました。桑田佳祐、佐野元春、世良公則、Char、野口五郎の66歳、同級生の5人組です。

 2022年2月に桑田、世良が顔を合わせ、新型コロナウイルスの脅威、全国各地で起きている自然災害、ロシアによるウクライナ侵攻などの話題が出る中で「同級生で協調して、今の時代に向けた発信ができないか」というアイデアをもとに、桑田作詞作曲、5人でボーカル、ギターのこの楽曲ができました。5月21日にラジオ番組「桑田佳祐のやさしい夜遊び」で初オンエアされ、6月6日にYouTubeで公開されました。少し長くなりますが、歌詞を載せます。

 

この頃「平和」という文字が

朧げに霞んで見えるんだ

意味さえ虚ろに響く

世の中を嘆くその前に

知らないそぶりをする前に

素直に声を上げたらいい

旅路の果ては空遠く

まだ夢叶わずに

回り道を繰り返して

One Day Someday

いつの間にか

ドラマみたいに時代は変わったよ

目の前の出来事を

共に受け止めて

歌え Rock’n’Roll Band!!

我々が居なくなったって

この世の日常は何ひとつ

変わりはしないだろう

そんなちっぽけな者同士

お互いのイイとこ持ち寄って

明日に向かって

Twist and Shout, C’mon!!

…Shake It Up, Baby!!

子供の命を全力で

大人が守ること

それが自由という名の誇りさ

No More No War

悲しみの

黒い雲が地球を覆うけど

力の弱い者が

夢見ることさえ

拒むと言うのか?

One Day Someday

いつになれば

矛盾だらけの競争(レース)は終わるんだろう?

この世に大切な

ひとりひとりが居て

歌え Rock’n’Roll Band!!

闇を照らす

ダサい Rock’n’Roll Band!!

 

 歌詞だけ見ると、いわゆる反戦歌、プロテストソングのようですが、桑田さん特有の音楽にのせると、普通(?)に聞こえます。皆さんも是非YouTube等で聞いてみてください。ロックのおじさん達は、キックして、クックして、コックして、ノックして永遠に不滅です。