校長室より

新しい世界の資源地図

新しい世界の資源地図

 さて、今回はダニエル・ヤーギンが書いた「新しい世界の資源地図」の紹介です。ヤーギンは、1947年ロサンゼルス生まれの経済アナリストで、特にエネルギー問題に詳しく、1992年に書いた「石油の世紀」でピューリッツアー賞を受賞していますが、この年に湾岸戦争が始まりました。今回新作の「新しい世界の資源地図」の日本語訳が2022年2月10日に出版されましたが、その2週間後にロシアがウクライナに侵攻しています。日本経済新聞の書評は「不吉な著者である」という言葉で始まっています。

 500ページを超える書物なので、読了するのには骨が折れましたが、骨折はしていません。最近流行の地政学的視点から気候変動とエネルギー革命を鋭く分析した一冊になっています。全体は6部で構成されています。

1「米国の新しい地図」 アメリカはシェールオイルとシェールガスの「発見」によって、自国の燃料をまかなう以上に、エネルギー輸出国になった。石油の三大輸出国がサウジアラビア、ロシア、アメリカになったことの影響が大変大きい。

2「ロシアの地図」 石油と天然ガスを商品にして、プーチン大統領の野望がある。ウクライナに対する圧力をかけたい。(ヤーギンがこの本を書いた時点では、まだ戦争にはなっていないが、いつ開戦しても不思議ではないことが分かる)

3「中国の地図」 南シナ海を自国のものとし、一帯一路で市場とエネルギーを確保したい。

4「中東の地図」 石油と天然ガスの一大産地だが、イスラム教のシーア派イランと、スンニ派サウジアラビアの覇権争いの行方が見えない。

5「自動車の地図」 内燃機関の自動車の未来はない。電気自動車、自動運転車、ライドヘイリング(ウーバーなどが提供する、自動車による送迎サービス)の時代になる。

6「気候の地図」 化石燃料から再生可能エネルギーへの転換が進む。水素エネルギーの利用と、太陽光、風力発電がどれくらい進むか。

 例えば、アメリカでシェールオイルがなければ、アメリカはエネルギー確保のために、中東やロシアともっと友好関係を深めねばならなかったし、電気自動車の普及が進めば、ロシアの石油は売れなくなるし、気候変動を避けるためには、中国のエネルギー消費はこのままではありえないし、数多くの出来事が互いに密接に絡み合っている状態だ、ということです。

 新しいマップ(地図)を作るには、モップを持って、ラップを歌ってタップを踊りながら、コップにホップを入れて、トップを目指さなくてはなりません。