校長室より

2022年6月の記事一覧

アンパンマン

アンパンマン

 生徒の皆さんはアンパンマンを知っていますよね。超有名なキャラクターですから、知らない人はいないと思います。

 「やなせたかし」さん(1919~2013)作・絵の「あんぱんまん」がフレーベル館の月刊絵本「キンダーおはなしえほん」に掲載されたのは1973年のことですから、来年で50周年ということになります。

 「砂漠の真ん中で倒れていた旅人や、森で迷った子どもに、自分の顔を食べさせる。顔がなくなったあんぱんまんは、ぱんづくりのおじさん(最初は『ジャムおじさん』という名前がなかった)に新しい顔をつくってもらい、再び『おなかのすいたひと』を助けるために空へ飛び立つ」というお話しでした。

 発表された当初は「顔を食べさせるなんて残酷だ」「図書館に置くべきではない」「こんな絵本はもう描かないでください」などと言われ、反響はあまり良くなかったようです。

 それでも1988年にテレビアニメとして放送されると、全国的な大ヒットとなります。テーマ曲の「アンパンマンのマーチ」はみんな歌えると思います。フレーベル館から出版されたアンパンマンの絵本は、約580タイトルにのぼり、累計部数は8千万を超えるそうです。

 アンパンマンには数多くのキャラクターが登場しますが、覚えやすいネーミングでもあります。悪者のはずの、ばいきんまんも憎めない存在です。アンパンマンは戦いもしますが「分け与える」ことが主になっていることが素晴らしいと思います。

 アンパンマンも調べてみると、歴史があり、私が知らなかったことがたくさん出てきました。物事を探究すると、阪急電車が運休して緊急事態になり、サンキューと言われそうです。

 

シジュウカラの声

シジュウカラの声

 言葉を用いて、他者と会話できるのは人間ホモ・サピエンスだけでしょうか。例えば、イルカやサルは会話をしていそうな感じはしますよね。京都大学白眉センター特定助教の鈴木俊貴さんは、シジュウカラという鳥は、鳴き声でお互いに会話ができることを約10年かけて確認しました。どうやったらそんなことが分かるのでしょうか。

 鈴木さんは1年の大半を軽井沢で過ごし、シジュウカラを観察するうちに、鳴き声から20以上の単語を持つことを見つけました。例えば「ヂヂヂヂッ」はエサ等を見つけたから「集まれ」という意味です。「ピーツピッ」と鳴くと、周囲をキョロキョロとし始めるので「警戒せよ」という意味です。これだけなら一つの鳴き声が一つの意味を持つ、でおしまいですが、私が感動したのはこの次の研究です。「ピーツピッ、ヂヂヂヂッ」と鳴くと「警戒せよ、集まれ」の意味ですから、シジュウカラは複数で群がり、モズを追い払いました。ところが語順を変えて「ヂヂヂヂッ、ピーツピッ」という声を聞かせても、何の反応も示しませんでした。シジュウカラは二つの単語の語順を認識しているわけです。

 カラスを見た親鳥は「ピーツピッ」と鳴くと、「警戒せよ」ということですからヒナ達は鳴き声を静めてうずくまることが分かりました。アオダイショウというヘビが巣箱に迫ってきたとき、親鳥が「ジャージャーッ」と鳴くと、巣箱の中にいたヒナが一斉に飛び出してきました。これだけでは「ジャージャーッ」という鳴き声が「ヘビだ」なのか「巣から逃げろ」の意味なのかがわかりません。鈴木さんは親鳥達に「ジャージャーッ」という音を聞かせると、まず地面を見て、それで見当たらなければ、木の穴や茂みまで探しに行くことに気づきました。そして音と同時に、木を這うヘビのように木の枝を動かしてみました。「ヂヂヂヂッ」や「ピーツピッ、ヂヂヂヂッ」の時には木の枝には見向きもしなかったシジュウカラは「ジャージャーッ」の時だけ1メートル以内にまで近づいて、木の枝を確認しました。この実験の結果「ジャージャーッ」という鳴き声が「ヘビ」という単語であり、ヘビそのものをイメージしていることが分かりました。

 鈴木さんはシジュウカラだけではなく、他の動物たちも言葉を用いて会話しているのではないか、と考え「動物言語学」という学問を立ち上げようとしています。人間ももう少し言葉を大事にしないと、波止場から海に落ちて始終カラになってしまいそうです。

 

新しい世界の資源地図

新しい世界の資源地図

 さて、今回はダニエル・ヤーギンが書いた「新しい世界の資源地図」の紹介です。ヤーギンは、1947年ロサンゼルス生まれの経済アナリストで、特にエネルギー問題に詳しく、1992年に書いた「石油の世紀」でピューリッツアー賞を受賞していますが、この年に湾岸戦争が始まりました。今回新作の「新しい世界の資源地図」の日本語訳が2022年2月10日に出版されましたが、その2週間後にロシアがウクライナに侵攻しています。日本経済新聞の書評は「不吉な著者である」という言葉で始まっています。

 500ページを超える書物なので、読了するのには骨が折れましたが、骨折はしていません。最近流行の地政学的視点から気候変動とエネルギー革命を鋭く分析した一冊になっています。全体は6部で構成されています。

1「米国の新しい地図」 アメリカはシェールオイルとシェールガスの「発見」によって、自国の燃料をまかなう以上に、エネルギー輸出国になった。石油の三大輸出国がサウジアラビア、ロシア、アメリカになったことの影響が大変大きい。

2「ロシアの地図」 石油と天然ガスを商品にして、プーチン大統領の野望がある。ウクライナに対する圧力をかけたい。(ヤーギンがこの本を書いた時点では、まだ戦争にはなっていないが、いつ開戦しても不思議ではないことが分かる)

3「中国の地図」 南シナ海を自国のものとし、一帯一路で市場とエネルギーを確保したい。

4「中東の地図」 石油と天然ガスの一大産地だが、イスラム教のシーア派イランと、スンニ派サウジアラビアの覇権争いの行方が見えない。

5「自動車の地図」 内燃機関の自動車の未来はない。電気自動車、自動運転車、ライドヘイリング(ウーバーなどが提供する、自動車による送迎サービス)の時代になる。

6「気候の地図」 化石燃料から再生可能エネルギーへの転換が進む。水素エネルギーの利用と、太陽光、風力発電がどれくらい進むか。

 例えば、アメリカでシェールオイルがなければ、アメリカはエネルギー確保のために、中東やロシアともっと友好関係を深めねばならなかったし、電気自動車の普及が進めば、ロシアの石油は売れなくなるし、気候変動を避けるためには、中国のエネルギー消費はこのままではありえないし、数多くの出来事が互いに密接に絡み合っている状態だ、ということです。

 新しいマップ(地図)を作るには、モップを持って、ラップを歌ってタップを踊りながら、コップにホップを入れて、トップを目指さなくてはなりません。