校長室より
赤いインク
赤いインク
ある男が、東ドイツからシベリア送りとなりました。彼は、検閲官が自分の手紙を読むことを知っていました。だから、友人にこう言ったのです。「暗号を決めておこう。もし、俺の手紙が青いインクで書かれていたら、手紙の内容は真実だ。だが、もし赤いインクで書かれていたら、それは嘘だ」1ヶ月後、彼の友人が手紙を受け取ると、すべてが青いインクで書かれていました。そこには、こう書かれていたのです。「ここでの暮らしは大変素晴らしい。美味しい食べ物もたくさんある。映画館では西側の面白い映画をやっている。住まいは広々して豪華だ。ここで買えないものと言ったら、赤いインクだけだ」
このジョークは、ドイツがまだ東ドイツと西ドイツに分かれていた時代に、ソ連の「社会主義」を皮肉ったものです。しかし、このジョークはひょっとしたら現在の私たち「資本主義」での暮らしにも当てはまるかもしれません。
今私たちが享受している「自由」や「豊かさ」がこの青いインクで書かれた手紙の世界だとしたら。例えば、日本に暮らす私たちは、ウーバーイーツで美味しいものを注文したり、Netflixで好きな映画を見たり、ルンバの自動掃除機を買うこともできる。そんな世界では、私たちの望む自由がすべて実現されているように見えるかもしれません。でもそれはただ、この社会の不自由を描くための赤いインクがないからだとしたら。だって、実際には、給料は安いし、仕事もつまらない。家も車もローンを組まないと(あるいはローンを組んでも)買えない。定年まで必死に働いても年金はもらえないかもしれない。さらに、気候危機は悪化していく。そのうえ、インフレに悩まされる世界経済の先行きは不安で、日本には円安や人口減少という問題もある。ロシアとウクライナの戦争は終わる兆しがないし、台湾有事も心配だし、北朝鮮のミサイルはいつ飛んでくるか分からない。実際には、これからも資本主義が続く、と言われて未来に希望を持てる人は、どんどん減っているのではないでしょうか。これは単に、資本主義では赤いインクが手に入らなくて、世界が青いインクで塗りつぶされているだけなのかもしれません。
ここまで長く引用した文章は、経済学者の斎藤幸平さんが書いた、NHK出版新書「ゼロからの『資本論』」の一節です。斎藤さんは現在に必要な赤いインクとして、マルクスの「資本論」を取り上げます。マルクス、資本論、社会主義などという言葉は、過去の遺物としてとらえられている気もします。斎藤さんは「資本論」とマルクスが書き残したメモ等を読み込み、これから必要とされる社会のあり方を考えていきます。もちろんそれは当時のソ連や現在の中国が行っている「社会主義」とはまったく異質な社会です。一読をお勧めします。社会を赤いインクで書くと、深い理解が得られ、愉快な機会が増えて、高い2階に登り、世界を見る視界が広がります。
学校紹介・美術工芸部紹介
サンテレビ「4時!キャッチ」2020/7/15
Copyright(C)2019-
Kodera High School of Hyogo
All rights reserved.
このサイトの著作権はすべて
兵庫県立香寺高等学校にあ
ります。画像・PDFなど、
サイト内にある全てのコンテ
ンツの流用を禁じます。