校長室より

2023年1月の記事一覧

ゴルゴ13

ゴルゴ13

 ゴルゴ13は、小学館が発行する「ビッグコミック」誌で、1968年から連載が始まった「さいとう・たかを」さんによるアクション劇画です。日本人あるいは日系と思われる国籍不明のスナイパー・自称デューク東郷が、何物にも支配されず、ただ己の掟にのみ従って、依頼された仕事を完璧に遂行していくストーリーです。単行本の刊行が207巻を超え、2021年にはギネス世界記録にも認定されました。

 作者のさいとう・たかをさんは2021年9月に84歳の生涯を閉じられましたが、「さいとう・プロダクション」によって現在も連載が継続しています。これだけ長く連載が続いていますから、ストーリーの基本は時代とともに変化してきました。アメリカのCIA(中央情報局)とソ連のKGB(国家保安委員会)の暗躍が柱だった1970年代、産業スパイものが目立つ90年代、デジタル万能社会を使いこなし、かつ我が道を征くゴルゴが際立った2000年代以降、という具合です。この作品を読んで、国際情勢を学んだ読者も大勢いると思います。

 私には、主人公のデューク東郷は、イギリスの007シリーズのジェームズ・ボンドと重なって見えることもあります。昔は平気だったと思いますが、最近はコンプライアンス重視の傾向があるので、画期的な新しい作品を生み出していくことが困難になっていくのかもしれません。とりあえず連載は続いていくようなので、今後の活躍に期待しましょう。ゴルゴ13の話題を、大阪の十三に行ったつもりで、1月13日に掲載できることを嬉しく思います。

 

幸田文

幸田文

 「ただひとつ、去年どんないいことがあったか、を数えてみることにしている」

 幸田文(こうだ あや 1904~1990)さんの言葉です。幸田文さんといえば、文豪として著名な幸田露伴の娘さんですが、文さんの娘さんの青木玉さんも、その玉さんの娘さんの青木奈緒さんも作家、随筆家として有名です。露伴から4代続けて文芸の世界で知られる存在は、とても珍しいものだと思います。

 幸田文さんは繊細な感性と観察眼、江戸前の歯切れの良い文体が特徴で、折々の身辺雑記や動植物への親しみなどを綴った随筆の評価が高い人物です。伝わっている写真の姿は、和服姿のものが多く、明治時代の文化を感じることができます。

 冒頭の言葉は、嫌なことはずっと引きずるが、いいことはたいていその場限りで忘れてしまうことが多いので、年が改まったときこそ、去年あったいいことを思い出そう、という趣旨のものです。現代人の生活スピードはますます速くなっている気がして、次のこと、次のことで精一杯な毎日です。我が身を振り返る機会も大切だと教えてもらえた気がします。

 幸田露伴が、どうして文(あや)という名前を娘につけたのかは知りませんが、まさか孫やひ孫までもが文(ぶん)章で生きていくことになるとは、夢にも思わなかったと思います。

 

成熟スイッチ

成熟スイッチ

 皆様、明けましておめでとうございます。2023年が始まりました。今年こそ平和な世界の実現を望んでやみません。

 さて今回は、作家の林真理子さんの新著「成熟スイッチ」です。古希(70歳)に近づいている林真理子さんですが、日本大学の理事長を引き受け、雑誌の連載も続け、今回のエッセイの出版です。どれだけ元気でパワフルやねん、と感心するのですが、この本から引用します。

 「年をとって、後輩に成熟の素晴らしさを教えてくれる人と、老いの醜さ見せつける人がいます。若い頃には、それほど違いがなかったかもしれない人たちが、歳月を経ると、まるで別世界の住人のように振り分けられていきます。成熟にも格差が生じてくるのです」

 「成熟は一日にしてならず。しかし成熟への道は、成熟を目指したとたんに開けていきます。日常の小さな心がけの一つ一つ、世の中のいたるところに、成熟へと向かう小さなスイッチがちりばめられているのです」

 確かに年齢を重ねていくにつれ、「老害」「暴走老人」になってしまってはいけません。私も我が身を振り返り、スイッチを探そうという気になりました。成熟するためには、早熟のまま、原宿や新宿で遊ばなければなりません。