校長室より

2020年2月の記事一覧

【校長室より】第72回卒業証書授与式 校長式辞

式   辞


玄関脇に植えられた白梅が、例年よりも早く満開を迎えた佳き日に、本校第72回卒業証書授与式を挙行いたしましたところ、多くの来賓の皆様、保護者の皆様におかれましては、ご多忙にも関わりませず、卒業生の門出を祝うためにご隣席をいただき厚くお礼申し上げます。誠に有り難うございます。

ただ今、卒業証書を授与いたしました314名の皆さん、本日めでたく、卒業の日を迎えられたこと心よりお祝い申し上げます。皆さんの3年間の努力と精進に対して心から賛辞をおくります。皆さんは、平成29年4月の入学から今日まで、兵庫高校生らしく果敢にチャレンジし、勉学に、学校行事に、部活動に活発に活動してきました。あっという間の3年間で、まだ実感は湧いてこないかもしれませんが、真直ぐにこちらを向いている凛々しい表情から成長ぶりが伝わってきます。

さて、今年で阪神・淡路大震災から25年が過ぎました。皆さんがこの世に生を受けたのはその六年後です。これまでにない未曽有の大災害でしたが、国内外からの多くの支援により、神戸の街の復興が成し遂げられました。当時の様子は校舎一階事務室前の柱の銘板に記されています。これからも、震災の経験や教訓を忘れず、伝え、これを活かし、しっかりと備え、次の災害への心構えが必要です。

世の中は依然として厳しい情勢が続いています。国内においては、昨年も台風による大規模な洪水などの自然災害が日本各地に被害をもたらし、少子高齢化の加速など、日本経済も不安定な状況にあります。神戸も、高齢化と人口減少など新たな課題に直面し新たなまちづくりが喫緊の課題です。
 また、海外ではテロ行為や難民問題を始め、政治や経済で緊張が続いており、地球規模の温暖化も年々深刻化しています。さらには新型コロナウイルス肺炎が、世界中で大流行するなど新たな感染症との戦いも始まりました。現代は少なくとも過去の延長線上に単純に未来が来るような時代ではなくなっているといえます。

そのような中でも、72回生は、逞しく高校生活を過ごしてきました。全力で取組む先輩たちに続き、「責任ある自由」を育くみ、真の兵庫高校生へと成長していきました。
先日の3学期の始業式でも、目標の進路に立ち向かう皆さんが、しっかりと前を見据える姿、そして、校歌を堂々と歌う様子に、力強さを感じました。111年の伝統を誇る本校の偉大な先輩方にも劣らぬ高校生活を全うした皆さんに改めて敬意を表します。

卒業にあたり、これからいかなる時も前向きに生きていくために、心にとどめていただきたいことを3つ述べます。

1つ目は、「習慣を改める」ということです。
宇宙飛行士たちが月に到達するためには、地球のとてつもない引力をまさに断ち切らなくてはなりません。ロケットの発射直後の数分間、距離にして数キロ足らずの上昇に必要としたエネルギーは、その後の数日間、約70万キロの飛行に使ったエネルギーをはるかに上回るといわれています。同じように習慣という引力も非常に強いものです。「先送り」「短気」「わがまま」などの癖が根づいてしまったら、中途半端な意思の力だけでは断ち切れません。日々できることを地道に続けて習慣化することで、少々の失敗や挫折を経験しても、くじけることのない自信を持つことができます。
行動だけではなく、我われが無意識に使う言動にも注意が必要です。何よりも、「ダメだ」「最低だ」といった物事を強く感情的に否定する「ネガティブな言葉を日常的に使わない」ことが重要です。「誰かの良いところを無条件に本気で心の底から褒める『感嘆』の言葉」「心から有り難いと思って語る『感謝』の言葉」「素晴らしい自然、芸術、音楽、スポーツに触れたとき、その喜びを表現する『感動』の言葉」、このようにポジティブな言葉を意識して使うようにする必要があります。それが習慣になったとき、無意識のうちにネガティブな感覚が薄れ、自分自身の人格が磨かれていくでしょう。

2つ目は「人生の解釈を変える」ということです。
自分の人生には、劇的な成功体験でなくても、小さな成功体験が数多くあるはずです。過去を振り返り、「あの人に巡り会ったことで人生が拓けた」「あの出来事が起こったことで道が拓けた」と気づくことがあれば、それは素晴らしいことです。「人間万事塞翁が馬」「禍福はあざなえる縄のごとし」という故事のとおり、往々にして不運に見える出来事が、実は幸運に導かれた出来事であるかもしれません。起こったことに一喜一憂せず、どう解釈するのかが、我われの人生を分けます。いかなる失敗体験においても、「失わなかったもの」や、「与えられたもの」に目を向けることができるかどうかが重要です。どのような失敗や挫折であろうとも、自分にとっては一度限りの、かけがえのない人生の一コマです。「この出来事は自分に何を気づかせようとしているのか」という見方があっても良いのではないでしょうか。

3つ目は「人生における問題を、自分に原因があると引き受ける」覚悟を持つことです。
カナダの精神科医エリック・バーンは、「他人と過去は変えることはできないが、自分と未来は変えられるのだ」と述べています。自分の内面、人格、動機などに働きかけることができるのは自分だけです。信頼されたければ、信頼されるに足る人間になる、才能を認められたければ、まずは人格を高めるところから始めなければならないということです。プラスの発想をすれば人生はプラスに作用し、良い出会いにつながっていくものです。良いときは感謝し、難が有るときには、それをひっくり返して有り難うという。そうすればピンチもチャンスに変わるかもしれません。

本校で文武両道を磨いた皆さんは新たな進路においても、高度な専門性を身に付け、さらにその先でも意欲的に研鑽を積まれることでしょう。これからは、日本中、いや世界中の優れた人材と相まみえることになります。その時には、互いに切磋琢磨しつつも自信を持って、自分の道を究めて欲しいと願っています。

さて、保護者の皆様、お子様のご卒業、誠におめでとうございます。
教職員一同、力をあわせてお子様の教育にあたってまいりましたが、至らぬこともあり、ご迷惑やご心配をおかけしたことも度々であったと存じます。本校の教育方針をご理解いただき3年間終始ご協力、ご支援を賜りましたことを代表してお礼申し上げます。お子様が健康で社会に有為な人となられることを切にお祈りいたしますとともに、今後も、本校への変わらぬご交誼とご鞭撻をお願いいたします。

卒業生の皆さん、健康にはくれぐれも留意し、自分のため、家族のため、さらに世のため人のために、そして、君たちの後に続く後輩たちのためにも大いに活躍されることを祈っています。
名残は尽きませんが、72回生、107陽会の前途に幸多かれと、心よりお祈りしつつ本校生として最後の校歌を、ともに高らかに歌いお別れいたしましょう。
これをもって式辞といたします。
さようなら

令和2年2月28日

兵庫県立兵庫高等学校長
升 川 清 則