校長室

1月全校集会校長講話(全校集会は、寒波による休校で実施できず)

 3年生が自由登校に入り、校内は1・2年生だけになりました。2年生は最高学年になるという自覚、1年生は学校の中核になるという自覚を持ち、高校生として、また明高生として恥ずかしくない言動がとれているかどうか、今一度自己点検してほしいと思います。

 さて、今日は、現在の京セラとKDDIを創業した方で、経営破綻した日本航空の立て直しにも奔走され、昨年8月に亡くなられた稲盛和夫氏について話をしたいと思います。

 稲盛氏の少年・青年時代は決して順風満帆なものではありませんでした。むしろ挫折の連続であったようです。 中学受験・大学受験に失敗、結核を煩い、戦争の空襲で家も焼失してしまいます。入社した会社は赤字続きで、逃げ場もない不遇な状況に追い込まれた稲盛氏は腹をくくり、「周囲のせいにしているうちは何も始まらない」と一念発起、それからは一切の不平不満を捨て、目の前の仕事に「ど・真剣」に取り組んだそうです。そこから人生は好転します。稲盛氏は「与えられたことに必死に打ち込むことで、弱い心を鍛え、人間性を養い、幸福をつかむことができた」と言っています。そして、「人生には方程式がある」として「人生・仕事の結果=考え方×熱意×能力」であるとも言っています。かけ算ですからどれか一つが「0」ならば結果も出せません。「能力」がまだ十分でなくても「考え方」が人として正しく、「熱意」をもって目の前のことに取り組んでいけば、大きな結果が得られる、そうして人生は拓けていく、と断言しています。

 稲森氏には多くの著作がありますが、その一つ『生き方』の一部を紹介します。

 「世の中のことは思うようにならない、私たちは人生で起こってくるさまざまな出来事に対して、ついそんなふうに見限ってしまうことがあります。けれどもそれは、『思うとおりにならないのが人生だ』と考えているから、そのとおりの結果を呼び寄せているだけのことで、その限りでは、思うようにならない人生も、実はその人が思ったとおりになっていると言えます。人生はその人の考えた所産であるというのは、多くの成功哲学の柱となっている考え方ですが、私もまた、自らの人生経験から、『心が呼ばないものが自分に近づいてくるはずがない』ということを信念として強く抱いています。つまり実現の射程内に呼び寄せられるのは自分の心が求めたものだけであり、まず思わなければ、叶うはずのことも叶わない。換言すれば、その人の心の持ち方や求めるものが、そのままその人の人生を現実に形づくっていくのであり、したがって何かことをなそうと思ったら、まずこうありたい、こうあるべきだと思うこと、それもだれよりも強く、身が焦げるほどの熱意を持って、そうありたいと強く願望することが何より大切になってきます」。

 皆さんは今、勉強に、部活動に、自分のやりたいこと、やらなければならないことに「ど・真剣」ですか。「だれよりも強く、身が焦げるほどの熱意を持って、そうありたいと強く願望」していますか。高校時代は勉学を通して自分自身を鍛え、世界を広げる時期であり、他者との関わりの中で生き方や在り方を考える時期であり、そして人生を選び取る時期です。こうした時期にあって日々どう過ごすかは、皆さん一人一人の「考え方」と「熱意」にかかっています。今一度、このことを強く自覚して日々高校生活を送ってほしいと思います。

 最後に、皆さんには繰り返し新型コロナウイルス感染防止対策を訴えかけていますが、集団で一緒に話をしながら食事をとったために感染した、濃厚接触者になったという事案が相変わらず多発しています。本校生の中にも、皆さんの家族の中にも重症化リスクを抱えた人がいます。取り返しのつかない事態にならないよう、皆さん一人一人が自覚して行動してほしい、責任ある行動をとってほしいと切に願います。

3学期始業式式辞

 皆さん、おはようございます。2023年がスタートしました。皆さん一人一人が大きな夢や希望を持って今そこにいると思います。コロナ禍で不安が尽きない中ですが、その大きな夢や目標に向かって決して挫けず、諦めず、邁進する、そんな充実した1年にしてほしいと思います。

 さて、今や年末年始の風物詩となっているのが数々のスポーツです。中でも、私がいつも見入ってしまうのが箱根駅伝です。教え子が箱根路を走り、テレビの画面越しに応援したことが契機となりました。

 駅伝のルーツは、古くからあった飛脚制度や、江戸時代に五街道の一つであった東海道で、馬で荷物を運んだ伝馬制にあると言われています。最初の駅伝は1917年に京都から東京まで約508㎞、23区間、昼夜問わず3日間走り続けるというものでした。距離を分担して走るというルールは、個人よりもチームを大切にする、いかにも日本発祥のスポーツだと思います。

 箱根駅伝のルールは実に過酷です。中継点で20分遅れのチームは繰り上げスタートを強いられ、タスキを繋ぐことができません。翌年のシード権は10位までで、それ以下は予選からの熾烈な闘いが待っています。このように、タスキはチームと歴史を繋ぐものであり、学校の名誉と誇り、そして選手一人一人の血と汗と涙が染み込んだものです。

 駅伝はよく人生の縮図であるとも言われます。平坦な道ばかりでなく、時に風雨、風雪にも苛まれます。そうした苦難を克服するために、日頃から弛まぬ努力の積み重ねが必要です。今回の箱根駅伝でも、私達が知り得ない努力の積み重ねが、数々の感動的なドラマとして私達の心に響いたのではないかと思います。

 皆さんに認識してほしいのは、こうした感動的なドラマは何もスポーツに限ったことではなく、皆さんが日頃から取り組んでいる全てのものに共通するものだと思っています。どんな思いで、どんな決意でそれに取り組んでいるか、それは真剣か。そして、そこに弛まぬ努力のプロセスがあるからこそ、ドラマとなり、感動を呼び起こし、周囲がそれに共感、共鳴するのだと思います。真剣であればあるほど、それはより大きなものになります。

 実は、皆さんもそれぞれにタスキを背負って走っています。2023年がスタートしましたが、この1年を見ても、幾つもの節目があります。ゴールとなる目標を設定し、それを見据えて節目節目にタスキをどう繋げていくかをしっかり考えてください。

 1・2年生はそれぞれ2年後、1年後を見据えて。3年生は人によっては1ヶ月後、2ヶ月後、あるいは大学を卒業する4年後、この先10年後を見据えて。皆さんそれぞれにそれぞれの目標に向かって、決して挫けず、諦めず、弛まぬ努力を積み重ねてしっかりと自分のタスキを繋いでいく、そんな3学期、2023年にしてくれることを強く希望します。

 ところで、明高も今年、創立100周年を迎えました。9月30日には記念式典・記念講演会を予定しています。また、記念事業・関連事業として、新資料館の建設、資料館周辺の庭園整備、視聴覚教室を探究ルームに改修、体育館にトイレ新設、記念イベント等を計画しています。明高の歴史と伝統、建学の精神「自彊不息」のタスキを皆さんとともに繋いでいきたいと思います。

 最後に、繰り返しになりますが、新型コロナウイルス感染防止の徹底をお願いします。

2学期終業式講話

 社会は動き始めましたが、依然としてコロナ禍に翻弄されたままの令和4年、そして2学期が終わります。皆さんにとってどんな1年、どんな2学期でしたか。

 ところで、皆さんは「カリカリ」というお菓子を知っていますか。「カリカリ」は、亀田製菓が販売しているインド人向けの「柿の種」のことです。

 人口が頭打ちとなり、食品業界が待ったなしの変革を迫られるなか、亀田製菓は国内中心の事業からスタイルを変えようとしました。その一つが、人気商品である「柿の種」をインドで販売することでした。このインド進出をはじめとした食品事業や海外戦略の舵取り役を担うのがインド人副社長のレカ・ジュネジャさんです。

 彼は、インドの大学院を卒業後に名古屋大学大学院で食品工業化学を学び、博士号を取得。入社した大手食品素材メーカーでは研究も営業もこなして副社長に就任。「お茶の成分のリラックス効果」の研究成果は世界中の商品に活かされています。その後、ロート製薬を経て2020年に亀田製菓に副社長として迎えられました。そして、「研究のための研究はやめて、どんどん新商品を出そう。それも、日本の1億2千万人ではなく、世界の77億人を相手にしよう」と社員に訴えました。彼は「日本の食品企業はまだ世界に出ていない。世界の市場を狙っていった方がいい。世界に出るには苦労があり、容易に成功しない。でも、リスクも取らないとダメ。枠を自分で決めてしまってはダメ。枠を超えたことをやろう」とも訴えました。そこで作り出されたのが、種が大きく、ピーナツ量が多く、生地が厚く、味が辛めで濃い「カリカリ」です。それは現地で瞬く間に人気商品になりました。

  さて、この話から皆さんは何を感じ取ったでしょうか。グローバル時代、やはり世界に目を向けないといけない。リスクを冒してもチャレンジすべきだ。それぞれに感じ取ったものは異なるでしょうが、私が皆さんに伝えたいことは2点あります。

 1点目は「研究のための研究はやめる」です。この「研究」を他の言葉に置き換えてください。たとえば「勉強」「練習」。「勉強のための勉強」「練習のための練習」。皆さんは「進路実現、大学進学のための勉強」ではなく、「宿題のための勉強」「課題提出のための勉強」になっていませんか。「近畿大会出場、全国大会出場のための練習」ではなく、「今日もまた練習があるから練習」になっていませんか。皆さんにはそれぞれ目指すもの、目標とするものがあるはずです。それを達成するために何をしなければならないのか、それを自覚できたら、自ずと意識も姿勢も取組も変わってきます。

 2点目は「枠を自分で決めてしまってはダメ」です。皆さんは自分で自分の限界を決めつけていませんか。やる前からどうせ無理だと諦めていませんか。自分はこの程度じゃない、これでは満足できない、こんなはずはない、このままではダメだと考えて真剣に努力している人がどれだけいるでしょうか。

  令和4年が、そして2学期が終わろうとしている今、これまでの自分を見つめ直してください。皆さんそれぞれに目指すもの、目指すところが何なのかを確認し、そのためにハードルを上げて越える努力を惜しまないでください。皆さんには建学の精神「自彊不息」、この言葉の意味を改めて噛みしめてほしいと思います。皆さん一人ひとりが、2学期が終わるこの節目、年が改まるこの節目を、自分が変わる転機にしてくれることを期待します。

最後に、明日から冬休みに入りますが、改めて新型コロナウイルス感染防止の徹底をお願いします。

それでは、1月10日にこうして全員が元気に登校してくれること、令和5年が皆さんにとってすばらしい1年となることを祈念して、式辞とします。

11月全校集会講話

 皆さんは夏川草介(そうすけ)さんが書き下ろした『神様のカルテ』という小説を読んだことがあるでしょうか。もしかしたら映画で見た人がいるかもしれません。櫻井翔さんが主役を演じていました。

 この小説は、主人公の若手医師である栗原一止(いちと)が、病院で出会う患者さんや、先輩あるいは同僚の医師、看護師、大学同期の親友、アパートの少し変わった住民、主人公を優しく見守る写真家の妻など、多くの人々と接しながら自分自身の生き方について考える姿を描いています。

 その中に、主人公と、彼が担当する患者さんとの対話の場面があります。この患者さんは高校の教師をしていた人で、多くの本に囲まれた自分の部屋で、主人公と次のようなやりとりをします。

 それは患者さんの言葉から始まります。「ヒトは、一生のうちで一個の個人しか生きられない。また別の人生があることを我々に教えてくれる。たくさんの小説を読めばたくさんの人生を体験できる。そうするとたくさんの人の気持ちもわかるようになる。」「たくさんの人の気持ち?」「困っている人の話、怒っている人の話、悲しんでいる人の話、喜んでいる人の話、そういう話をいっぱい読む。すると、少しずつだが、そういう人の気持ちがわかるようになる。」「わかると良いことがあるのですか。」「優しい人間になれる。」「しかし、今の世の中、優しいことが良いことばかりではないように思います。」「それは、優しさということと、弱いということを混同しているからです。優しさは弱さではない。相手が何を考えているのか、考える力を「優しさ」というのです。優しさというのはね、想像力のことですよ。」

 「優しさ」=「考える力」=「想像力」、思わず納得してしまう、心にストンと落ちてくる言葉です。皆さんには「優しさ」がありますか。最近、いじめと思われる事案、SNSをめぐるトラブルが多発しています。本校も例外ではありません。人に「優しく接する」とはどういうことか、どうすることか、この機会に一人一人考えてほしいと思います。

 さて、本を読んでいると、自分ではうまく言い表せないでいた考えや気持ちを的確に表した表現に出くわすことがよくあります。表現の仕方や語彙を身に付けるツールとして、言葉を自在に操る小説家の書いた文章にふれることは大変意味があると思います。また、映像を見るのではなく、活字を読むことで、想像力を高めることもできます。読書は豊かな感性を磨き、幅広い知識を得て、考える力を育て、表現力や想像力を育みます。大学入学共通テストにおいても、どの教科も多量の文章や設問文、資料文を読ませる出題に変化しています。こうした様々な理由から、ぜひとももっと読書に勤しんでほしい、1日10分でいい、読書に時間を割いてほしいと思います。

 最後に、新型コロナウイルス感染がまた拡大しています。本校でも、特に濃厚接触者が非常に増加しています。教室の換気の徹底、マスクを外した会話や昼食時の会話の厳禁、こうした感染防止対策の徹底を改めてお願いします。一人一人が自覚を持って行動してください。

10月全校集会講話

 

 少し前、7月の話になりますが、陸上の世界選手権がアメリカのオレゴン州ユージンで開催され、サニブラウン選手が日本人短距離界初の決勝進出という快挙を成し遂げました。その決勝では、惜しくも銅メダルに0秒18届きませんでした。レース後のサニブラウン選手は、「近いようで遠い。1ミリ1ミリ縮めるために、1日1日、1秒1秒を大切に頑張っていきたい」とコメントしましたが、私にはまさに極限の世界を生きる人が発する言葉に聞こえました。

 実際、このニュースを報じた新聞のコラムに北京オリンピック400mリレーの銀メダリスト、朝原宣治氏が寄稿していたので紹介します。「私も、何度もファイナル進出に挑戦したが、準決勝はとてつもないエネルギーが渦巻いている。まるで格闘技のように同じ組のライバルと、肉体と精神をぶつけ合うような感覚を味わった。その場を支配する巨大なエネルギーに耐えられた人間だけが、決勝の8人に選ばれる。ただ速いから立てる場所ではないから尊いのだ」。この言葉からも、サニブラウン選手の強靱なまでのメンタルの強さがうかがえます。

 サニブラウン選手は2019年に日本新記録となる9秒97をマークしましたが、以降、腰痛に苦しみ、その中で彼が感じたのは「スポーツ競技はメンタル勝負である」ということ、そしてどん底を乗り越えて学んだのが「マインドセット」の重要性であると語っています。

 「マインドセット」とは、それまでの経験や学習、先入観から作られる思考パターンのことです。簡潔に言うと「無意識の思考・癖・思い込み」のことです。

 普段、私達人間の行動は、95%が無意識に行われていると言われています。それはそれまでの経験や学習、自分の中の常識によってかたちづくられた「マインドセット」を持って行動しているからだそうです。

 その「マインドセット」には「成長型」と「固定型」があって、「成長型マインドセット」は「自分の能力は努力次第で成長させることができる」という思考、「固定型マインドセット」は「能力はもともと決められており変わらない」という思考で、多くの人はこの両方を持っているそうです。

 例えば、「大リーグは別世界だ」と思っていた人が、大リーグで活躍する大谷選手の姿を見て「自分にもできる」と思うようになる、「大リーグは別世界だ」という思いが「固定型マインドセット」、「自分にもできる」という思いが「成長型マインドセット」です。

 この「成長型マインドセット」を持って挑戦することが成功の秘訣です。試合ともなると、失敗できない大事な場面ともなると、あるいは受験ともなると、緊張の極限状態に置かれます。しかし、「成長型マインドセット」を日頃から研ぎ澄ましていくことで、動じない精神力を身に付け、それを乗り越えられるはずです。「自分は必ずできる」「自分は必ず成功する」「自分は必ず合格する」、無意識にそう思える、そう信じられるマインドをセットできるよう、1日1日、1秒1秒を大切に鍛錬を重ね、自分を追い込んでほしいと思います。逆に、無意識にそう思えたら、「自分はやり切った、悔いはない」と思えたら、きっと緊張を楽しむことができるようにもなるはずですし、どんな結果であれ、それを納得して受け入れられずはずです。

 明高生の誰もが「成長型マインドセット」を持ち、理想像を描いてその実現のために努力し続ける、そんな学校生活を送ってくれることを期待しています。

 最後に、新型コロナウイルス感染防止の徹底を改めてお願いします。