学校長ブログ

2020年4月の記事一覧

在校生へのメッセージ

75回生の入学行事に先立ち、令和2年度の1学期をスタートするにあたって、在校生に話したことを掲載します。
 それにしても、相手の顔が見えないところで、マイクに向かってしゃべるのは、なぜあんなに緊張するのでしょうか。

 昨日、新型コロナウイルスの感染拡大による緊急事態が宣言され、兵庫県の県立学校においても、休校措置が5月6日まで延長されることになりました。

本来なら、新しい学年を迎え、「よしやるぞ」という気分が高揚するときのはずでした。

 3年生にとっては、昨年、5年ぶりに先輩たちが奪還した優勝旗を死守すべき、御影高校との定期戦が中止になり、また、県の総体も開催できるかどうか、暗中模索の状況です。ここで気分を盛り上げて、進路実現に向けて邁進しようと意気込んでいた矢先のことで、出鼻をくじかれたような思いがしているのではないでしょうか。

 人生でもっとも伸び代の大きい高校3年間のなかでも、とりわけ著しい成長を遂げるはずの2年生は、その活躍の機会を先送りされたもどかしさを覚えているかもしれません。

 これからどうなるのかという不安やいらだちは、すべての高校生が感じています。その意味で皆さんは、全国の高校生とつながっていると言えます。そして、多くの高校生が、直面する危機をどう乗り越えるか、考え始めています。

 自分にとっての危機を乗り越えるためにどんな行動を起こすかは、危機をどう受け止めるかに左右されます。危機に対する認識、危機から何を学ぶかと言い換えてもよいと思います。

 皆さんは、日ごろ、日本の社会や経済、世界の経済、あるいは人類という視点でものごとを考えたことがあるでしょうか。もちろん授業ではあるでしょうが、日常生活の中で日本や世界、人類といった視点で考えを巡らす機会は滅多にありません。この危機は自分だけの危機ではない、日本社会全体の危機であり、世界の危機であり、人類にとっての危機です。今回の危機に直面して、私たち一人ひとりが社会や世界とのつながりの中で生きているということを改めて思い知らされました。こうした捉え方ができれば、おのずととるべき行動は見えてくるはずです。日本社会全体で危機を乗り越えるために、責任ある行動、節度ある行動をとってほしいと思います。

 ところで皆さんは、休校の間、どんな生活を送っていたでしょうか。日ごろは7:00には起床して登校していたのが、だんだん遅くなり、10:00に起きて、寝るのは深夜の2:003:00といった状況になっていなかったか、振り返ってみてください。もしこうした変化が起こっていたとすれば、それは、日々の生活を自ら律する自律の力が身についていなかったことになります。今回の危機は、皆さん一人ひとりにとって、自ら律し、自ら立つ、二つのジリツが試される試練でもあります。

 皆さんにとっては、予定していたこと、期待していたことがかなわない状況が続きます。こんなとき、油断していると、悪魔の3Dが忍び寄ってきます。悪魔の3Dとは「だって、でも、どうせ」の三つがセットになった言い回しです。これに取りつかれると、気力がなえ、何も手につかなくなってしまいます。危機から学び、「今何ができるか」「今何をすべきか」を、自分で考え、自分で行動を起こしてください。その自由は皆さんの手の内にあります。

 そして、社会全体でこの危機を克服し、皆さんが存分に活躍できる日が、一日も早く訪れることを願っています。

新入生へのメッセージ

 昨日、うららかな陽ざしのもと、入学行事を行いました。簡素な形での実施になりましたが、入学許可を宣言し、新入生にとって人生の節目を刻むことができました。
 その席で、新入生に伝えたメッセージを掲載します。


 ただ今入学を許可いたしました二百八十名の皆さん、入学おめでとう。新型コロナウイルスによる緊急事態のもとではありますが、こうして保護者の皆さまの前で、入学許可の宣言ができましたことは、教職員一同にとりましてこの上ない喜びであり、深く感謝申し上げます。

 三月三日から学校が休校になるなかで、高校入試に臨むのはさぞ不安だったことでしょう。そんな逆境を乗り越えて、皆さんが県立夢野台高等学校の第七十五回生になったことをうれしく思うとともに、保護者の皆さまのお喜びも一入のことと、心よりお祝い申し上げます。

 さて、人生にはそのときどきに成し遂げなければならない課題があります。青年期の入り口に立つ皆さんにとっての課題は、「アイデンティティの確立」、つまり、「自分とは何か」「自分らしさとは何か」に対する自分なりの答えをつかむことです。その答えは、誰かが教えてくれるものでもなければ、探せばどこかでひょっこり見つかるものでもありません。「自分」とは「探す」ものではなく、「つくる」ものです。

 「自分づくり」は一人ではできません。家族をはじめ、先生、クラスの仲間や部活の先輩、地域の方々、そして、これから出会うであろう多くの人々とのかかわりを通して自分をつくっていくのです。本校は、勉学により確かな学力を培うことを教育の中心に据えるとともに、部活動や学校行事にも力を入れています。「あれか、これか」で自分の可能性を狭めてしまうのではなく、「あれも、これも」という貪欲さで文武両道に励み、人間としての器の大きな自分をつくっていってほしいと思います。

 ただし、その道のりは、決して平坦ではありません。思うようにいかず、挫折感や劣等感にさいなまれることもあるでしょう。そんなとき、油断すると、悪魔の3Dがしのびよってきます。悪魔の3Dとは、「だって、でも、どうせ」がセットになった言い回しのことです。これが口癖になると、気力がなえ、体に力が入らなくなって、一歩も前に進めなくなってしまいます。「だって、でも、どうせ」のマイナスの連鎖を断ち切るには、「きっと」の一言で十分です。「きっとかなう」と信じ、「きっとかなえてみせる」と覚悟を決めれば、失敗や挫折を成長の糧にすることができます。そして、「きっと」に込められた未来への希望と目標を共有できるよき友を持つことが、自分づくりにとって大きな力になるに違いありません。

 

 次に、保護者の皆さまに一言申し上げます。子供を前にすると、転ぶ前に手を差し伸べたくなるのが親心というものです。しかし、それはかえって子供の自立を阻むことにもなりかねません。私は、生徒たちに、本校の教訓「清く 正しく 優しく 強く」にある「本当の強さ」を持った人間になってくれることを願います。

 そのために、厳しさの中にも愛情を持って、教えるべきことを教え、伝えるべきことを伝えるのが私たち教職員の責任であると考えております。それと同時に、あえて次の一言を言わずに待つことで、生徒たちが自分で考え、自分で行動する自主性、自発性を促し、自立を支援する姿勢で臨みたいと思います。

 どうか、本校の教育に、格別のご理解とご協力をよろしくお願い申し上げます。

 

 新入生の皆さん、夢と希望に胸をふくらませて今日という日を迎えたというのに、新型コロナウイルスの感染拡大により、出鼻をくじかれたような思いをしているのではないでしょうか。誰もが不安やあせりを感じています。しかし、決して悪魔の3Dのささやきに耳を貸してはいけません。「きっと…」を胸に、高校生活のスタートに備えてほしいと思います。夢野台は皆さんにとっての夢舞台です。「夢はここで実現する」という希望と気概を持って充実した高校生活を送ってくれることを願っています。

 

令和二年四月八日

兵庫県立夢野台高等学校長

北 川 真 一 郎