校長室より
平和の有難さ ~2学期始業式にて~
皆さん、おはようございます。7月下旬からの長い夏季休業期間が終わりました。正規の授業がないというだけであって、補習、部活、模擬試験などで、普段と変わらないような生活をした人も多かったことと思います。事故や怪我なく無事に過ごせたでしょうか。
1学期の終業式では、パリオリンピック閉会式で飛び降りてきたトム・クルーズの話で「しぶとく夢を追いかけること。」についてお話しました。3年生はしぶとく頑張り抜きましたか?2年生はしぶとく文武両道に徹することができましたか?1年生は何かしぶとくチャレンジできましたか?できた人は、必ず2学期にグングンと成長します。楽しみにしておきましょう。
さて、毎年のことですが、8月は、戦争と平和や、人の命のことを考える機会が多くありました。8月6日は広島に原子爆弾が投下された日、9日は長崎の日、そして15日は終戦の日と、連日、新聞やテレビで関連のニュースや番組が多く取り上げられました。
2・3年生には昨年話しましたが、私は、この時期に必ず「火垂るの墓」という映画を観ることにしています。野坂昭如の原作で、戦時中、神戸を舞台に子供の兄と妹だけで生き抜こうと、必死で生きたが、はかなく二人とも亡くなってしまう物語です。この映画を観る度、涙が流れます。涙する度、生きていることを実感します。生きていることを実感する度、平和の有難さを感じます。今年は「あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら。」という現代の女子高生と特攻兵の作品も観ました。
79年前、第2次世界大戦によって、心ならずも犠牲になった方々が大勢おられました。日本では300万人以上の方が亡くなられたと言われています。神戸市人口の倍以上です。その中には君たちと同世代の若い人たちも多数含まれていました。戦争末期、片道限りの特攻隊が組織され、出撃した特攻隊員の多くが20歳前後の若者でした。爆弾を搭載した航空機ごと搭乗員が敵艦などに体当たりする特別攻撃隊のことを特攻と言いました。航空機には片道の燃料しか積まれていません。1945年8月の敗戦までの10カ月間でおよそ4000人が命を落としたと言われます。陸軍少年飛行兵学校や予科練習生を経た少年、学徒出陣で動員された大学生もいました。戦争の時代と言える昭和初期に育ち、"お国のために"戦争におもむくのは当然、戦場で命を散らすのは名誉なことだという価値観、教育の中で生きていました。特攻隊員になることは志願制とされましたが、そこには命令や指名もあり、拒否することはできませんでした。そのなかで、万に一つも生き残る可能性のない特攻を前に、苦悩したり、疑問を感じたりした若者も少なくなかったことでしょう。痛ましいことです。
戦争は、まともな人間らしさを持つことが許されません。ですから、人間らしさを保てる平和な時代に生きている私たちは、次の世代に歴史を語り継ぎ、同じ過ちをせず、平和の大切さを伝えなければなりません。
今、ウクライナでは、ロシアの侵攻による戦争が2年半も続いています。パレスチナ・ガザ地区でも多くの命が奪われています。ウクライナ国民、ガザ地区市民は、いつ平和が訪れるのか、いつ日常が戻ってくるのか、不安な日々を過ごしていることでしょう。同じ時代に生きている私たちは、しっかりと関心を持ち続け、彼らが平和へ近づくため、何らかの支援をすることが今後も大切です。
私たちひとり一人の命は、平和が繋いだ大切な命です。どんな時でも、人間らしさを忘れず、ひとり一人の命を守っていきましょう。この夏、南海トラフ地震臨時情報も発表されました。また、昨日は防災の日です。“よ・い・こ”は覚えていますか?災害伝言ダイヤル覚えていますか?
この2学期に君たちひとり一人の命が、より一層輝くことを願っています。
校長 塙 守久
「しぶとく」~1学期終業式にて~
みなさんおはようございます。
コロナによる大きな影響もなく、また学校において大きな事故もなく、無事に1学期の終了を迎えることができました。皆さん一人ひとりの協力のお陰です。ありがとうございます。
さて、皆さん、ディスレクシアという言葉をご存じですか?「ディスレクシア」日本語では読み書き障害と言うのでしょうか。文字が読めない、書けないという特性です。
昔、アメリカで、そのディスレクシアの少年がいました。その少年の夢は、「パイロットになって空を飛びたい。」という夢でした。周りの人たちは「字が読めないのに空を飛ぶなんて不可能だ。」「試験問題読めないじゃん。」「そんなの絶対無理。」と言ってからかいました。少年はその特性から、いじめに会い何度かの転校を余儀なくされたといいます。
その少年は青年になり、俳優になりました。そして、映画出演によって、飛行機に乗り大空を飛びました。そう、その映画が「トップガン」という作品です。その少年の名は、「ミッションインポッシブル」等で有名なトム・クルーズ。彼は、台本のセリフが読めないので、テープに吹き込んでもらい、何度も何度も聞き返し、セリフを覚えたということです。
少年は、旅客機のパイロットにはなれませんでしたが、俳優として、少年の頃の夢を実現しました。
皆さんも夢や目標があると思います。それを実現するためには、一つの道だけではありません。人それぞれのアプローチ、方法があるはずです。自分の気持ちを偽ることなく、しぶとく、簡単にあきらめず、自分はどうしたらいいのか考え、工夫をしながら努力してください。まさしく校訓「立志・誠実・努力」です。
3年生、高校生活最後の夏休みです。来年4月の自分の姿を思い浮かべ、後悔しないよう、やるべきことを精一杯しぶとく頑張ってください。
2年生、学校生活、部活の中心として迎える夏休みですが、部活や趣味だけでなく勉強との両立、どちらもしぶとく頑張り、文武両道を目指してください。
1年生、高校生活初めての夏休みです。まとまった時間がたっぷりあります。せっかくですので、何でも構いません、何かやりたいこと新しいことにしぶとくチャレンジしてください。きっと自分を成長させてくれます。
とにかく夏休み中、皆さんが事故や怪我なく過ごし、9月2日、元気に登校してくれることが一番の願いです。
全校生の皆さんが充実した夏休みになることを願っています。
校長 塙 守久
第47回入学式式辞(メッセージ抜粋)
(略)
そこで、皆さんの入学にあたり、心に留めておいて欲しいことを三つ述べて、歓迎の言葉といたします。
一つ目は、熱中できることを何か一つ見つけてほしいということです。部活動、勉強、趣味、何でも構いません。損得勘定とは関係なく、打算的な思いからでなく、ひたむきになれるもの、夢中になれるものに出会ってほしいと思います。夢中になれるものが、日々を満たしてくれます。高校生活を充実したものにしてくれることでしょう。
二つ目は、夢、志を持ってほしいということです。夢中になれることが、全て夢に繋がるとは限りませんが、夢を持つと目標が見つかります。目標が見つかると努力します。努力すると充実感が得られます。充実感が得られると幸せになります。是非、幸せな高校生活を送ってほしいと思います。
そして三つ目は、友を大切にしてほしいということです。高校生活は三年間です。長い人生の中では短い期間ですが、悩み多き、多感な思春期の三年間はとても重要な時期です。その時期に共に悩んだり、喜び合ったりして過ごした友は一生の友となります。何十年経っても高校時代の関係に一瞬で戻り、何でも話せる友がいることは何よりの財産になります。素晴らしい友に出会え、誠実に付き合うことを願っております。
(略)
校長 塙 守久
「過去に目を閉ざさず、未来を」~第3学期終業式にて~
皆さん、おはようございます。
今朝、鶯が鳴いていました。徐々に暖かくなってきて、3月初旬はおぼつかなかった鳴き声も美しい鳴き声になってきました。心が浮き立つような季節の始まりです。
44回生の卒業式が済んで、1・2年生にとって、1年間の締めくくりである終業式を迎えました。終業式は形だけの区切りではありません。生活の節目のひとつとして、この時期に、1年間を振り返って、次の方向性を自分で決めていくことをしてほしいと思います。
1年間というのは決して短い時間ではありません。1日1日の変化は目に見えないようなものであっても、1年前と今とでは、大きく違っているものがあるはずです。どのようなことに関して、どのように成長・変化したかということは個人ごとに異なっています。したがって、どのような尺度でこの1年間を振り返って、次の1年間をどのように考えるかということは、ひとり一人で微妙に違うことになるのでしょう。
けれども、高校生という時代においては、大きなテーマはみんなに共通しています。学習に取り組む姿勢や学力の伸び具合い、部活動などへの取り組み方とその成績など、それから、生き方や考え方の成長に関することです。その大きなテーマを、学校という集団の中で、互いに影響を与え合って、互いを高めようとしているのが高校時代であるのです。
人生は後ろを振り返ることばかりしていてはならないという意見があります。それは、過ぎたことを懐かしむ気持ちばかりが強いと、発展性に欠けるという意味です。私が今、言っていることは、そのこととは意味が違います。
初代統一ドイツ大統領のワイツゼッカーという人物が、第2次世界大戦終戦40周年記念演説で、こう述べました。「過去に目を閉ざすものは、現在に対しても盲目になり、未来も同じ過ちを犯すだろう。」と。ドイツ国民に過去の戦争責任を正視し、その責任を引き受けるよう説いた演説でした。それから、ドイツは人道的な観点でヨーロッパの国々に受け入れられるようになりました。
悲しいことですが、いまだにウクライナでの戦争が続いています。いかなる理由があろうとも戦争は容認できません。各国指導者が過去の大戦、戦争を直視し、同じ過ちを繰り返さないで欲しいと願うばかりです。
話は大きくなりましたが、君たちにとって、この1年間を振り返って、過去に目を背けることなく、締めくくるという作業は、ひとり一人にとって不可欠のことであると思います。よき春休みになることを祈ります。
校長 塙 守久
令和5年度 第44回卒業証書授与式
卒業証書授与式式辞(抜粋)
《略》
さて、早春の季節に私たちの目を楽しませてくれるのは、とりわけ梅の花です。梅を詠み込んだ詩歌は数多くありますが、私は高校時代の国語の時間に出会った中村草田男(なかむらくさたお)の俳句を思い浮かべました。それは、
勇気こそ地の塩なれや梅真白(うめましろ)
という句です。「勇気こそ地の塩なれや梅真白」塩は物の腐敗を防ぎますから、「地の塩」があれば、地上にある物は新鮮に保たれます。それとともに、「地の塩」という言葉は、勇気を持って、社会のために無償で尽くすことの例えでもあります。私たちの住む社会から濁りある物を取り除いて、社会を向上させる規範となることであり、また、そのようなことを行う人のことでもあります。一人ひとりが勇気を持って、みんなのために尽くそうとする気持ちを持たないと社会はしだいに腐っていってしまいかねません。
この俳句を中村草田男が作ったのは第二次世界大戦の末期一九四四年です。かつての教え子達が成長した後に、まだ学生の身でありながら戦いの火の中へ出陣していかなければならない状況下に置かれたことに際して、無言で書き示したものであると伝えられています。未だに、世界では各国の利害を背景にした核の恐怖や戦争、内戦が行われています。いかなる理由を設けようとも戦争を容認することは出来ません。
俳人・中村草田男は、「勇気こそ地の塩なれや梅真白」という、わずか十七文字の中に、凜と咲く白い梅の花に託して、社会を正そうとする勇気と、戦争への思いとを表現しているのだと思います。
卒業生の皆さんには、勇気を持って社会のために尽くそうとする気持ち、無償でみんなのために力を注ごうとする気持ちを持って行動して欲しいと願っております。
《略》
卒業生の皆さん、いよいよ門出です。私たち須磨東高等学校の職員は、皆さんの今後の発展と活躍を心から期待するとともに、それぞれの道を切り拓いて進んでいってくれるであろうことを信じています。皆さんは、大きな夢や希望を思い描いて、それを現実のものにしていこうとする固い決意や強い情熱をもって、それを実現させるとともに、この世界を支える一員として、広く周りの人や社会に貢献する働きも果たしてほしいと願っております。健康に留意し、凜々しく健気に生きていってください。皆さんの前途に幸多からんことをお祈りし、もって式辞と致します。
令和六年三月一日
兵庫県立須磨東高等学校校長
塙 守 久