校長室より

2024年3月の記事一覧

「過去に目を閉ざさず、未来を」~第3学期終業式にて~

 

 皆さん、おはようございます。

 今朝、鶯が鳴いていました。徐々に暖かくなってきて、3月初旬はおぼつかなかった鳴き声も美しい鳴き声になってきました。心が浮き立つような季節の始まりです。

 44回生の卒業式が済んで、1・2年生にとって、1年間の締めくくりである終業式を迎えました。終業式は形だけの区切りではありません。生活の節目のひとつとして、この時期に、1年間を振り返って、次の方向性を自分で決めていくことをしてほしいと思います。

 1年間というのは決して短い時間ではありません。1日1日の変化は目に見えないようなものであっても、1年前と今とでは、大きく違っているものがあるはずです。どのようなことに関して、どのように成長・変化したかということは個人ごとに異なっています。したがって、どのような尺度でこの1年間を振り返って、次の1年間をどのように考えるかということは、ひとり一人で微妙に違うことになるのでしょう。

 けれども、高校生という時代においては、大きなテーマはみんなに共通しています。学習に取り組む姿勢や学力の伸び具合い、部活動などへの取り組み方とその成績など、それから、生き方や考え方の成長に関することです。その大きなテーマを、学校という集団の中で、互いに影響を与え合って、互いを高めようとしているのが高校時代であるのです。

 人生は後ろを振り返ることばかりしていてはならないという意見があります。それは、過ぎたことを懐かしむ気持ちばかりが強いと、発展性に欠けるという意味です。私が今、言っていることは、そのこととは意味が違います。

 初代統一ドイツ大統領のワイツゼッカーという人物が、第2次世界大戦終戦40周年記念演説で、こう述べました。「過去に目を閉ざすものは、現在に対しても盲目になり、未来も同じ過ちを犯すだろう。」と。ドイツ国民に過去の戦争責任を正視し、その責任を引き受けるよう説いた演説でした。それから、ドイツは人道的な観点でヨーロッパの国々に受け入れられるようになりました。

 悲しいことですが、いまだにウクライナでの戦争が続いています。いかなる理由があろうとも戦争は容認できません。各国指導者が過去の大戦、戦争を直視し、同じ過ちを繰り返さないで欲しいと願うばかりです。

 話は大きくなりましたが、君たちにとって、この1年間を振り返って、過去に目を背けることなく、締めくくるという作業は、ひとり一人にとって不可欠のことであると思います。よき春休みになることを祈ります。

 

校長 塙 守久

令和5年度 第44回卒業証書授与式

卒業証書授与式式辞(抜粋)

 

 《略》

 

 さて、早春の季節に私たちの目を楽しませてくれるのは、とりわけ梅の花です。梅を詠み込んだ詩歌は数多くありますが、私は高校時代の国語の時間に出会った中村草田男(なかむらくさたお)の俳句を思い浮かべました。それは、

   勇気こそ地の塩なれや梅真白(うめましろ)

という句です。「勇気こそ地の塩なれや梅真白」塩は物の腐敗を防ぎますから、「地の塩」があれば、地上にある物は新鮮に保たれます。それとともに、「地の塩」という言葉は、勇気を持って、社会のために無償で尽くすことの例えでもあります。私たちの住む社会から濁りある物を取り除いて、社会を向上させる規範となることであり、また、そのようなことを行う人のことでもあります。一人ひとりが勇気を持って、みんなのために尽くそうとする気持ちを持たないと社会はしだいに腐っていってしまいかねません。

 この俳句を中村草田男が作ったのは第二次世界大戦の末期一九四四年です。かつての教え子達が成長した後に、まだ学生の身でありながら戦いの火の中へ出陣していかなければならない状況下に置かれたことに際して、無言で書き示したものであると伝えられています。未だに、世界では各国の利害を背景にした核の恐怖や戦争、内戦が行われています。いかなる理由を設けようとも戦争を容認することは出来ません。

 俳人・中村草田男は、「勇気こそ地の塩なれや梅真白」という、わずか十七文字の中に、凜と咲く白い梅の花に託して、社会を正そうとする勇気と、戦争への思いとを表現しているのだと思います。

 卒業生の皆さんには、勇気を持って社会のために尽くそうとする気持ち、無償でみんなのために力を注ごうとする気持ちを持って行動して欲しいと願っております。

 

 《略》

 

 卒業生の皆さん、いよいよ門出です。私たち須磨東高等学校の職員は、皆さんの今後の発展と活躍を心から期待するとともに、それぞれの道を切り拓いて進んでいってくれるであろうことを信じています。皆さんは、大きな夢や希望を思い描いて、それを現実のものにしていこうとする固い決意や強い情熱をもって、それを実現させるとともに、この世界を支える一員として、広く周りの人や社会に貢献する働きも果たしてほしいと願っております。健康に留意し、凜々しく健気に生きていってください。皆さんの前途に幸多からんことをお祈りし、もって式辞と致します。

 

令和六年三月一日

兵庫県立須磨東高等学校校長

   塙  守 久