通信
令和4年度以前
R4.4.8 始業式挨拶
皆さん、おはようございます。皆さんは、今日から、新学期の生活が始まります。始まるにあたって意識してほしいことがあります。
「挑戦と失敗が人を成長させる」ということです。
生徒や先生方も次にあげる5つのうち、その人を高く評価するのはどれでしょうか。
① 新たなことに挑戦して、成功した人
② 新しいことに挑戦したが、失敗した人
③ 自分では挑戦しなかったけれども、挑戦する人を手助けした人
④ 何もしなかった人
⑤ 何もせずに批判している人 の5つです。
これまでの日本の社会では、ややもすれば減点主義が主流になっていました。プラスの面に加点していくのではないため、自分は何もせずにチャレンジする人のことを「あんな冒険をしたら危ない」と批判し、失敗する人を横目に笑っていても、自分の評価は下がりません。困難に挑めば挑むだけリスクを背負い込むことになってしまい、何もせず批判しているだけのほうが安全だと思われがちです。しかし、新型コロナウィルス感染症の影響を受けながらも、技術革新や新しい取組みが求められている今、このような姿勢は何も生み出せず致命的ではないでしょうか。
また、皆さんが挑戦や失敗をした時のことを思い出してください。この中には、高校受験で、2月の推薦入試に挑戦したあと、3月の学力検査で合格した人がいると思います。不調だった際、落胆し、不安で落ち込んだかもしれませんが、学力検査までのひと月あまりの経験は、あなたをよりたくましくしたことと思います。予定していたことが上手くいかなかったとき、落胆するだけにとどまらず、「取り組む時間がふえた、気合いを入れ直せた。」とポジティブに捉えてください。思うとおりにいかなかった際は、「これは必ずもっといい結果につながるために必要なステップだ。」と、冷静に考えてください。
さらに、皆さんは、在学中の18歳の誕生日に成人になります。成人になると保護者の権限に服さず、一人でいろいろな契約ができるようになります。例えば、親の同意がなくてもスマートフォンや高額な商品を購入するローンを組むことができ、自分の住む場所、進学先を自分の意思で決定することも可能です。しかし、その決定に対して責任を担うのが自分自身となり、自分の意思で決めた結果、良い結果も悪い結果も自分自身が責任を負うことになります。
たとえば、本校には夏休みなど長期休業中に制服を着なくても良いという服装のルールがあります。これは、自分の個性を表現しつつ、その時と場にふさわしい服装を自分で考え、判断して行動してほしいというねらいに基づいたひとつの練習の機会です。
あなた方は高校生です。私をはじめ本校の先生方は、新しいこと、未知なことに挑戦する生徒を称賛し、失敗やミスに対して寛容です。勉強でわからないことあった場合、質問すれば丁寧に説明したり、アドバイスをしてくれます。苦手なことやできないことを努力しても、直ぐに結果が出ないときもあるということをわかっています。
ですから、皆さんは、新学期の新たな気持ちで高校生活をまっとうしてください。
R4.4.1ガイダンスブック
キャリア(career)教育とは
みなさん入学おめでとうございます。
いよいよ姫路東高の第77回生として人生の新たなステージに立ちました。
私たちは、生まれた瞬間に誰かの子どもとして存在します。と同時に、誰かの孫、誰かの甥や姪でもあります。そして、数ヶ月後には、 ○○こども園の園児という社会的な位置づけを得る場合もあります。また、早ければ数年後には英会話教室やスイミングスクールなどの生徒として、さらに兄や姉としての役割を得る子どももいるでしょう。そして、6歳になれば小学生に、その6年後には中学生になり、高校生になり、18歳で成人になります。
この後、君たちの多くは大学生になり、在学中にアルバイトやボランティア活動をしたり、起業したりする場合もあります。さらに、大学院進学や就職をしたり、結婚して夫や妻の役割を得、次に母親や父親の役割を与えられたりもします。自治会の役員をしたり、地域の伝統行事の実行委員を引き受けたりすることもあるでしょう。また、場合によっては、会社の倒産や子育てや親の介護など様々な理由によって、転職や休職・退職したりする人もいます。
こういった諸々を全部包含する言葉が「キャリアcareer」です。人生そのもの、生き方そのものと言っても良いでしょう。今の君たちには中学生までに積み重ねてきたキャリアがあり、それを土台にしてその後のキャリアが展開していきます。私たちのキャリアは、自らの計画や努力によって積極的に作られるものであると同時に、自らの力ではいかんともしがたいものもあります。予測がまったくできないことも起こりますが、一つ一つのキャリアがその後のキャリアに影響を与えていきます。
私たち教職員一同は、君たちが中学生までに積み重ねてきたキャリアを土台にして、社会的自立に向けたキャリア形成の支援をしていきます。職業ガイダンスセミナー、関西及び東京企業・大学訪問、スーパーサイエンスハイスクール(SSH)に係る探究活動、最先端の研究者による講義などのキャリア教育を経験していきます。
今後の3年間、東高でこの変化の激しい時代を生き抜く材となるために、「個性、のばせば 夢、はばたく」を合い言葉に、貪欲に学び、何事にもチャレンジしてください。
R4.1.17阪神淡路大震災 追悼放送
生徒の皆さん、おはようございます。
今から27年前の今日、平成7年(1995年)1月17日、午前5時46分、淡路島北部を震源とする兵庫県南部地震が発生しました。この地震の規模はマグニチュード7.3、最大震度は7。わずか20秒に満たないその揺れは、大きな災害をもたらし、死者6,400人を超える尊い人命を奪いました。みなさんと同じ高校生41人を含む、296人の児童生徒たちが含まれていました。
現在、神戸市役所の南にある公園に、阪神淡路大震災の「1.17希望の灯(あか)り」という慰霊碑があります。そこにはこんな言葉が刻まれています。
『震災が奪ったもの・・ 命、仕事、団らん、街並み、思い出
震災が残してくれたもの・・ やさしさ、思いやり、絆、仲間』
このように震災は、私たちから大切なものを奪っていきました。その一方で、震災から私たちは、命の尊さや助け合うことの大切さなど、多くのことを学びました。
平成7年(1995年)はそれまで主としてボランティアに携わってきた人々とは異なる多くの市民が災害ボランティアとして参加しました。このため同年を「ボランティア元年」と呼んでいます。
高校生である皆さんは、地域社会の中で重要な役割を果たすべき存在です。皆さんには、日本各地で起こる様々な自然災害やその被害を受けた方々に思いを寄せ、何らかの力になれる人に成長して欲しいと願います。
それではここで、この震災で犠牲となられた多くの方々に対して、黙祷を捧げたいと思います。その場で起立してください。(黙祷)
これで、阪神淡路大震災の追悼放送を終わります。
R3読書感想文集挨拶文
1961年生まれ
本校に現存する最も古い読書感想文集が図書室にあり、昭和36年(1961年)12月に図書部から発行された『紙魚 特集号』で、内容から創刊号と判断できます。
図書部の代表生徒の挨拶文から始まり、創刊や賞の選定の経緯が記載されています。創刊の経緯は、応募の質量が低下していることがあげられ、生徒諸君が本を読まなくなったこと、読んでも思考思索を伴った読書をしなくなったためと分析しています。問題解決のために新たな試みとして、①先生と生徒で良書150選を作成し、全校生徒に配布して読書の指針とした、②1年生の全員と2、3年生の希望者に感想文を提出してもらった。その結果269編(2年4編、3年1編)の投稿があり、先生と生徒で入選の選定をした。また、賞の選定に当たっては先ず担当職員を中心に図書部員がA級B級と判別し、なお遺漏なきを期するため、B級作品を全図書係職員で再読してA級に入れるべきものを拾った。そのA級作品の中から全図書係職員と部員より選ばれた委員3人が討議を重ね、賞を決めたと記載されています。この一連の取組みにより、「これより読書、特に精読の習慣を植え付けることを期したものである。」と先生の強い願いが感じられます。
今年もこうして発行されることに、その伝統の重みに改めて敬意を表するばかりです。みなさんの同級生が思考思索をして書いた読書感想文集『紙魚』を一人でも多くの生徒が手にしてほしいと思い、担当教諭や生徒のアイデアを取り入れてみました。
さて、私は本を読むことは好きですが、読書感想文を書くことは苦手でそれを強いられることに疑問を感じていた生徒でした。読書をすることによって疑似体験ができ、登場人物や著者との対話、頭の整理、新たな発見、賢くなったと思えるので、私は本を手にします。私のように読書感想文を書かされるので読書が嫌いになったと言い訳をせず、一生涯、本を読むことを好きでいてほしいと願っています。
最後になりましたが、優秀作品の選考並びに、『紙魚』の編集に携わっていただいた関係の先生方、そして図書文芸部の皆さんに心より感謝いたします。
R3.9高島様増補版
高島俊男先生と対話してみませんか ~「対話の場」としての図書室~
図書室は「対話の場」です。
未知の著者の声に触れ、その思いや考えを聴き、自ら考え、しばらく間をおいてまた著者の思いや考えをもう一度聴き直す。読書とは自分以外の他者との対話だといえます。
今年、本校の図書室に高島俊男先生コーナーを増設しました。その著書の中に『本が好き、悪口言うのはもっと好き』(大和書房)があります。主張も明解でわかりやすく、高島先生自身が述べられているように、ある程度自由にかけるところで書いた中国に関係ない文書がたくさん入っている十冊目の著書で、自身も「これまでで一番うれしい。」とも述べられています。
東高生のみなさん、偉大な先輩の文章に触れ、著者との沈黙の語らいに集中し、さらに自分自身とも対話をしてください。高島先生と対話して、自分をもっと広いところ、見晴らしの良いところへ導くことを期待しています。
R3「高校生」原稿
名物「体育大会」~伝統と創造~
世界遺産「姫路城」の城郭の中にある創立113年を迎えた本校は、校舎から四季折々の姫路城を望むことができる絶好のロケーションにあります。平成15年より単位制普通科校となり、令和2年には単位制の強みを活かしSSH(スーパー・サイエンス・ハイスクール)指定校となりました。
伝統ある本校の名物行事の1つに「体育大会」があります。クラス単位で縦割り6団を構成し、各競技を競います。昔は「デコ」と呼ばれる団のシンボルを3年生が作成し、体育大会終了時に「デコ」を燃やし、その周囲でフォークダンスをしていたそうです。
現在の体育大会には名物演目が2つあります。1つめは1年次生全員で取り組む「アジア体操」です。1958年に東京で開かれた「アジア競技大会」で披露されたマスゲームの体操に端を発し、約60年間体育大会で1年次生の演技として受け継がれてきました。280名全員の一糸乱れぬ演技は圧巻です。毎年上級生も楽しみにしており、ポーズが決まると拍手が湧き、会場は一体感で包まれます。
2つめは各団対抗の応援合戦です。3年次生の応援リーダーたちが考えた演技を各団の1,2年次生に指導し、構成や衣装に工夫を凝らして全校生徒で応援合戦を行います。休み時間や放課後を利用し練習を重ね、当日は大会のハイライトとして大盛り上がりです。
このように伝統ある体育大会ですが、コロナ禍の影響を受け令和2年度は中止となりました。しかし「アジア体操」を絶やさないよう、10月に1年次の学年行事としてアジア体操を披露する機会を設けました。
令和3年度は感染症予防対策を充分に行い、競技内容を精選し、半日の短縮プログラムで実施しました。感染症予防対策のため、手をつなぐフォークダンスは行えませんでしたが、伝統ある「アジア体操」は全校生の前で披露されました。「応援合戦」は練習時の密を避けるため、3年次生のみの実施となりましたが、先輩たちの熱のこもった演技に1,2年次生は魅了されていました。
昨年度体育大会が実施されなかったことで、これまでの体育大会を体験しているのは3年次生のみとなりました。1年間行事がなくなることで、生徒間での学校文化の伝承が難しくなっています。
アフターコロナを見据え、時代や社会の変化に合わせながら、脈々と受け継がれてきた「東高魂」を伝える学校行事を創造していく岐路に立っています。その時代の当事者が創造し、伝統をつくります。改めて「伝統」とは何なのか、を考えさせてくれた今年の「体育大会」でした。
R3.9.30 前期終業式校長挨拶
「自ら学ぶ」
みなさん、おはようございます。
コロナ禍では、様々なことがあらわになりました。リモートに十分対応できない国では、小学校・中学校・高等学校が休校になりました。その際、働く親が悲鳴を上げたとか、子どもたちの生活が乱れたという問題がありますが、根本的に、「どうして学校に行くのか?」ということがあぶり出されたと思います。
大切なことは「学校に行くこと」なのか、それとも「勉強すること」なのか。この2つは、似ていても根本的に違います。「学校に行くこと」は、とりあえず、学校に行けば解決します。学校でボーッとしていても、極端に言えば寝ていても、学校に行ったことになります。それで安心する親が多いでしょう。でも「勉強すること」は、とりあえず、勉強するふりをしただけでは解決しません。「勉強すること」はどういうことなのか。学校に行かない時期があったからこそ、私たちに問題として突きつけられたのです。
次に、授業について話します。
「わかる授業」が良い授業だとよく言われています。わかる授業をやればやるほど、わからない授業が生まれます。子どもが先生に依存してしまいますから。本当の学びは、教えてもらうことではありません。学びとは、自ら学ぶことです。自ら学ぶ姿勢です。「わかる授業」に代わる言葉は、生徒が主体の「学ぶ授業」です。学ぶのはみなさん自身で、「わからない」ことが重要になります。わからないことをわかるようにしようと、できないことをできるようにしようと努力することが、学びのプロセスやスキル、そこで得た経験が、あなた自身のまさに学ぶ力となります。
3年生のみなさん、体育大会の学年演技でダンスをしました。体育の授業でやってみて、明らかにうまくいかないところがあったとします。そのようなとき、みなさんはどうしましたか。より素敵なダンスにしようと、友だちと考え、友だちと相談しながら、実際に練習をしたと思います。まさに、その経験が勉強することで、その経験が学ぶ力となっています。みなさんが、希望する大学に進学したとき、社会に出たとき、東高生の生活が底力となりますから、10月からの日々、自らの意思で勉強し、学んでください。1,2年生のみなさんも同じです。日々の授業に加え、SSHの指定校となって探究活動に取り組んでいます。これもまた、勉強すること、学ぶことです。
10月1日に緊急事態宣言が解除されますが、コロナが収束したわけではありません。引き続き、感染予防に努めながら、あなたが描いている充実した高校生活を送ることを期待しています。
終業式の式辞とします。
R3.7.20 全校集会校長挨拶
「群れる」ことの大切さ
みなさん、おはようございます。
4月から今日まで、コロナ禍の中、様々な制限された高校生活を送ってきました。新型コロナ感染拡大防止のため、「社会的距離」が叫ばれてからかなりの時間が経過しています。「3密を避ける」「ソーシャルディスタンス」を合い言葉に、私たちは「群れる」ことを避けるように強いられています。
今年の5月14日、世界的な霊長類学者の河合雅雄さんが97歳で永眠されました。サルが群れて遊びながら、社会性を身につけていく過程を観察することで、「群れる」ことの大切さを痛感したと、河合先生が何かに書かれていたことを思い出しました。
現代社会、特にコロナ禍において、子どもや若者が集団行動・集団生活を通じて、創造力や社会性を養う環境が、薄れつつあることに私は危機感を感じています。今年は、昨年できなかった文化祭や東西大会が、感染防止に留意して、開催できたことを喜んでいます。
河合先生は、京都大学霊長類研究所長を務められ、愛知県犬山市にある日本モンキーセンターの開設に携わりました。また、昨年秋、2年生のおよそ半分の生徒が昆虫採集をした兵庫県立人と自然の博物館の名誉館長でもありました。
河合先生は、現地におもむくフィールドワークに徹した研究スタイルで、国内外で精力的に研究に取り組まれ、数々の輝かしい功績を残されています。功績のひとつを紹介します。
宮崎県の幸島(こうじま)に野生猿がいました。この野生猿の餌付けに成功し、より精密な観察が可能になりました。観察を続けているうちに、1歳半のサルがもらった芋を海水で汚れを落としてから食べるようになり、このサルを「イモ」と名付けました。このように、すべてのサルに名前をつけ、個体識別して観察を続けました。すると、この「芋洗い行動」が、最初は同年代の仲間に、次は、上の年代へと広がりをみせるようになり、さらには、子や孫が受け継ぎました。「人間以外の動物にも文化がある」という初めての説を英語の論文で紹介し、世界の人々の注目を集めたことは、多くの人が知るところです。
また、河合先生は児童文学でも数々の作品を残していますが、私が学生時代に読んで、特に面白かったのは「少年動物誌」と「ゴリラ探検記」です。その本は、「自然が子どもの成長にいかに重要であるか、いかにたくさんの夢を与えてくれるか」について訴えています。読みやすい本ですから、是非、手に取ってみてください。
夏休みを利用して、多様な価値観をもった人と様々な方法で「群れる」ことをしてください。感染予防に努めながら、みなさんが描いている充実した夏休みを過ごしてください。これで終わります。
R3ガイダンスブック挨拶文
社会的自立に向けたキャリア形成
みなさん入学おめでとうございます。いよいよ姫路東高の第76回生として人生の新たなステージに立ちました。
本校は、みなさんの将来の社会的自立に向けたキャリア形成の支援をしていきます。みなさんには、誕生から中学生までに積み重ねてきたキャリアがあり、それを土台にしてその後のキャリアが展開していきます。キャリアについては、自ら計画や努力によって積極的に作られるものがあると同時に、自らの力ではいかんともしがたいものもあります。また、予測がまったくできないことも起こりますし、それがその後のキャリアに影響を与えることも少なくありません。
さて、この「ガイダンスブック」は生徒一人一人の興味・関心、特性や能力、進路希望等に応じて学びを最適化できる学習システムを紹介しています。教科の学習方法や講座選択の仕方など、さらに大学の学部・学科についても詳しく説明してあります。この冊子を有効に活用し、あなた自身で選択・計画・努力して、キャリアを積み重ねてください。また、みなさんは、職業ガイダンスセミナー、企業・大学訪問、専門家による講演、スーパーサイエンスハイスクール(SSH)の探究活動などのキャリア教育を経験していきます。
そして、どのような社会においても通用する人材となるために、「個性、のばせば 夢、はばたく」を合い言葉に、貪欲に学び、何事にもチャレンジし続けてください。
【参考】
キャリア教育でいうキャリアは、「一人一人がこれまでの人生の中で歩んできた道、そしてこれから歩んでいく道」を総体的に表す言葉です。
「キャリアcareer」の語源は、ラテン語の「車道」や「轍(わだち)」を意味する言葉です。馬車などが通ったあとには轍ができ、多くの馬車が同じ場所を通れば車道となっていくでしょう。それが英語のcareerになって、競技場のコースやトラックを意味するようになり、そこから、人がたどる遍歴や経歴などの意味が生じたと言われています。
R2SSH科学倫理挨拶文
この世界を生きる若者たちへ
科学の発展は人間に大きな利益をもたらすと同時に、数多くの課題を突きつけています。生命科学の視点に立てば、病気の診断、予防、治療を著しく向上させ、社会に大きく貢献する一方、体外受精や遺伝子診断にかかわる治療、臓器移植のための脳死判定の是非が課題となっています。さらには、ヒトに関するクローン技術や合成⽣物学、世界に衝撃を与えた「ゲノム編集ベビー」などSF で描かれてきた世界がすでに現実味を帯びて目の前に提示され、これら科学技術の発展は、生命倫理の視点からも、これからの時代を生きる私たちが避けて通ることのできない注目すべき大きな課題となっています。
ところで科学倫理とは何でしょうか。着任祝いにと「宮澤賢治の元素図鑑」(化学同人発行)を贈られ、時折、校長室で眺めています。ページをめくると、元素ごとに元素記号とその元素の科学的特性、含有する鉱物の写真、その鉱物に関連する彼の詩や童話が記されています。彼は科学者としての目を持ち、農業に携わり、教員をして詩や童話の創作活動もしました。「銀河鉄道の夜」など、彼の作品には随所に科学的な側面が見え隠れしていて、たくさんの科学的な要素が散りばめられています。さらに彼は宗教にも精通していました。まさしく、科学、倫理、芸術文化、宗教が繋がり融合された世界で人生を歩んだと言える人物です。彼の業績をたどると、科学と隣接する領域がどれだけの広がりを持っているかということを感じます。
次に思うことは、古くからある科学者の研究不正問題です。数年前にはSTAP 細胞をめぐって大きな社会問題となり、科学者の行動規範や倫理観について世間の注目が集まりました。その後も、研究倫理を犯す論文が明らかにされる報道が続いています。そして、これまで行ってきた学校現場での理科実験を振り返ると「実験はうまくいくもの。答えにデータを近づけるようにしてしまう。正しくできれば評価が高い。」等という意識を育ててしまっているのではないかと思いを巡らせます。将来、研究者になった時、研究成果を求められ、改ざんや盗用をしてまで成果を出してしまうのではないかという危惧が拭えません。研究者や技術者など科学に関わる人々や組織の倫理や社会的責任が問われています。
最後に、中高校生から科学倫理を教育することの必要性です。世界ではすでに中高生向けに科学者の倫理的行動規範を考える教材を作成している先進国があり、それらを学ぶことがスタンダードになっています。国内でも、人種、ジェンダーと共に科学倫理を必須授業とするカリキュラムを設定し、文理融合を促進している大学があります。
これからの世の中は、人間の尊厳に深く関わる⼈類や地球の未来に⼤きく影響する科学技術の発展がもたらす倫理的問題はますます重要になっていきます。日本では2002年から科学技術関係人材の育成を目指したスーパーサイエンスハイスクール事業(SSH)が始まり、その成果によってイノベーションの創出を担う人材が活躍し始めています。このような背景があり、本校はSSHのテーマに科学倫理を設定して取り組み始めました。現在、生徒の皆さんが取り組んでいる課題研究においても、チームで問題を解決するためには倫理に則った価値観で共に適切に行動することが求められています。現代社会で起こっている問題や、これから起こるかもしれない問題で「何をすべきか」「何を考えるのか」と議論し科学倫理を考えてください。「私は理系に進学しないから関係ない」とは思わず、科学の恩恵を享受している社会を構成する一人の人として、科学に関する倫理を身につけてくれることを期待しています。
R2東生会だより2
会員のみなさんに感謝
東生会会員の皆様におかれましては、ご健勝でご活躍のこととお喜び申し上げます。平素は、本校のために何かとご高配を賜り、誠にありがとうございます。
山野俊二110周年実行委員長・増田泰之東生会会長をはじめ東生会の方々の多大な支援により、令和の白壁・弥生の庭が完成し、歴史と伝統を感じさせる素晴らしい環境の中で日々教育活動に励んでいます。
また、東生会の豊富な人材を生かした様々な講演を通じて、生徒達の豊かな感性を育み、生徒達の希望を実現していきたいと考えています。経済活動の停滞による影響が懸念される状況において、会員の篤い思いが込められた給付型の奨学金制度がより充実していることに感謝しています。
さて、昨年は新型コロナウィルスとの闘いの年で、臨時休業や学校行事の中止など教育活動が制限され、しかも未だ収束にはほど遠い状況です。感染が身近に迫る中、マスク着用と換気の徹底など、家庭・職場・学校にウィルスを持ち込まない地道な取り組みを教職員、保護者や生徒と共に根気強く続けています。
一方、コロナ禍は社会を変革する契機ともなり、本校においても授業の動画配信、海外語学研修の代替としてオーストラリアの高校生とのオンライン交流、上野千鶴子さんや玄田有史さんによるリモート講演などICTを含むデジタル化に取り組んでいます。国や県の施策を活用するだけでなく、東生会の支援によって施設・設備の充実を進め、ポストコロナ社会を先導する東高を目指しています。
また、「スーパーサイエンスハイスクール」(SSH)として文部科学省より今年度から5年間の指定を受け、将来国際的に活躍し得る科学技術人材等の育成を目指しています。課題研究の授業で探究活動に取り組むと共に、科学部は「高校生科学技術チャレンジ(JSEC)2020」など複数の全国規模の大会で上位受賞するなど活躍していることを報告します。
最後になりましたが、今後も会員皆様のご支援に恥じないように、故大西壬名誉会長が仰っていた「良い子をつくれ!」を肝に銘じ、東高にある~個性、のばせば 夢、はばたく~というスローガンのもと、唯一無二(オンリーワン)の学校を目指し、職員一同力一杯教育活動を邁進していきます。引き続きご支援、ご鞭撻の程、何卒よろしくお願いします。
R21224全校集会挨拶
上野千鶴子さんリモート講演の「ノイズ」について
生徒のみなさん、こんにちは。
11月24日に上野千鶴子さんに「これからあなたたちの待っているのはどんな社会か」と題し、リモート講演がありました。これは、講演で紹介された上野さんの著書「情報生産者になる」ちくま新書です。みなさんはもう読みましたか?
講演を思い出してください。その中に「ノイズ」の話がありました。思い出せますか?
こんな内容だったと思います。
情報とは何か?情報はノイズから生まれ、ノイズのないところに情報は生まれません。ノイズとは何か?ノイズとは違和感、もやもやするという小さな違和感、こだわり、疑問、ひっかかり・・・のことです。「前からそうだから、決まっているから・・・」などのように、あたりまえだと思って、なんの疑問も感じない環境のもとでは、ノイズは生まれません。ノイズの中から意味のある情報が生まれることがあります。情報にならずにノイズのまま終わってしまうノイズもあります。ですからできるだけたくさんのノイズが発生するような環境をつくっておくと、それだけ情報生産性が高くなるとも言えます。ノイズの発生装置を活性化するのは簡単です。自分にとってあたりまえのことがあたりまえにならないような環境に身を置くことによって得られます。そんなに難しいことではありません。例えば、①海外旅行、言葉も慣習も違う異文化に身を置くこと また、②生い立ちや環境の違う人や障害を持った人と身近に接すればいいと。言い換えれば、情報とは、システムとシステムの境界に生まれます。複数のシステムに股をかけたり、システムの周辺に位置したりすることは、情報生産性を高めます。複数のシステムの境界に立つことです。
ノイズの話は、このような内容だったと思います。
生徒のみなさん、上野千鶴子さんのリモート講演とその後の生徒とのやりとりをみて、あのとき感じたこと、考えたことをもう一度思い出してください。冬休みに時間がある人は、最初に紹介した「情報生産者になる」ちくま新書を読んでみてください。
最後にもう一つ、上野さんからの生徒のみなさんにエールがありましたね。「安心して弱音を吐ける場を見つけ、あなた自身が生きていて良かったと思える人生を送って」と。あなた自身のために、時間を大切にして年末年始を過ごしてください。
では、新型コロナウィルスに感染しないように、手洗いの励行、マスク着用、3密を避けた生活を送り、1月に再会できることを願って、校長の話を終わります。
R2東生会だより挨拶文
知的体力
東生会会員の皆様におかれましては、コロナ禍の状況のもと、感染予防に努め、ご健勝でご活躍のこととお喜び申し上げます。平素は本校のために何かとご高配を賜り深く感謝いたしております。
私は、今年4月に第27代校長として着任し、世界文化遺産姫路城を仰ぎ見るこの地にあり、さらに創立110周年記念事業の一環として東生会から寄贈された「弥生の庭」と「令和の白壁」に囲まれた、伝統校にふさわしい素晴らしい環境に感銘を受けました。そしてさらに、同窓生の篤い思いが込められた学校独自の充実した奨学金制度に感謝すると同時に、34,000人を超す優れた人材を輩出してきた歴史と伝統の重みを感じ、身が引き締まる思いでいます。
現在私たちは、誰も経験したことのない、これまでのセオリーが当てはまらない未知の事態に巻き込まれています。私たちは、いつまで続くかわからないまま、答えが出ない、出せない状態の中に居ること、居続けられる力を持つこと、また、問えば問うほど問題が増えてくるその複雑性の増大に耐えうる「知的体力」を持つことを求められています。新しい社会に適応するため、私たちが変化することを突きつけられたといえるでしょう。このような状況の中、東高生は今年度から5年間、「スーパーサイエンスハイスクール」(SSH)として文部科学省より指定され、地球科学や科学倫理探究などの課題研究に取り組みます。東高にある~個性、のばせば 夢、はばたく~というスローガンのもと、「知的体力」を身につけ、「知・徳・体」の調和のとれた人物として、将来、社会で貢献できる有為な人材を育成したいと願い、不易と流行を意識しながら教職員一体となって、教育活動を推進していく所存です。
最後になりましたが、本校教育に、今まで以上のご理解とご協力を賜りますことを重ねてお願いするとともに、会員の皆様方の益々のご発展とご健勝をお祈り申し上げます。
就任の挨拶
令和2年4月1日付けで本校第27代校長として着任をいたしました臼井研二と申します。
本校は110年の歴史と伝統をもつ単位制普通科高校です。単位制を生かした少人数講座やキャリア教育により、生徒の希望する進路実現を支えてまいりました。
昨年度には「ひょうごスーパーハイスクール」として、探究活動に取り組み、この度、文部科学省より「スーパーサイエンスハイスクール」の指定を受けました。これにより、独自のカリキュラムによる授業や、大学・研究機関などとの連携、地域の特色を生かした課題研究など様々な取り組みを積極的に行っていきます。
新型コロナウイルス感染拡大など予測困難で急激に変化を続ける社会に対応し、未来への道を切り拓いていく力の育成を目指し、職員一丸となって教育環境のさらなる向上に全力で取り組んでいく所存です。今後とも、保護者、地域、関係者の皆様方のご理解とご協力を賜りますよう、よろしくお願い申し上げます。
令和2年4月6日
県立姫路東高等学校
校長 臼井 研二