2023年3月の記事一覧

3学期修了式講話

 皆さんおはようございます。令和4年度が終わります。この1年を振り返ってどうでしたか。納得のいく1年だったでしょうか。今年度もコロナ禍に見舞われたままの、何かと制約を強いられた中での1年ではありましたが、学習に、学校行事に、そして部活動に、多くの人が直向きに取り組んでくれたと思っています。そうした皆さんの頑張りを改めて心から称えたいと思います。

 さて、最近、心理学の立場から注目されている言葉に「グリット」という言葉があります。この「グリット」を提唱したのは、アメリカの心理学者で、ペンシルベニア大学のダックワース教授です。彼は、ニューヨークの公立中学校で数学教師をしていた際、成績が優秀な生徒に共通した特徴が頭の良さや生活環境ではないことに気づきました。そこで、大学に戻り研究を続けた結果、成功する人に共通する特徴は「グリット」にあると結論づけました。

 「グリット」とは、「Guts=困難に立ち向かう闘志」「Resilience=失敗しても諦めない粘り強さ」、「Initiative=目標を設定し取り組む自発性」、「Tenacity=最後までやり遂げる執念」の頭文字をとった造語で、簡潔に言うと「やり抜く力」のことです。

 「グリット」は後天的なものであり、トレーニングをすれば必ず身につくそうです。そのための方法として、「興味があることに打ち込む」「挑戦せざるを得ない環境を作る」「小さな成功体験を積み重ねる」「グリットがある人のいる環境に身を置く」ことが大切だそうです。

 学校生活の中で、例えばクラス役員や生徒会役員、部活動や学校行事おいて自分が本気で打ち込めるものを探してください。本業である学習に直結していなくても構いません。何かに本気で打ち込むことで「グリット」が身につき、本業である学習にもそれが活きてきます。

 どうせ無理だと最初から決めつけずに、「もしかしたらできるかんじゃないか」「どうやったらできるだろうか」と前向きに捉えるクセをつけることも大切です。何もしなければ、何も変わりません。先ずは、チャレンジすることです。

 人はどうしても周囲の環境に依存してしまいがちです。自分の意識や習慣を変えるのはなかなか容易なことではなく、ハードルも高いと思いますが、「グリッド」の高い人が側にいる環境に自ら飛び込み、そうせざるを得ない状況に追い込むことで一歩が踏み出せます。

 また、「グリット」の高い人は常に自分ならやれるという自信、信念を持っています。それを支えている要素の一つが過去の成功体験です。自分ができそうなところから始め、徐々にハードルを上げて自分のスキルより上の目標を設定し、それをクリアしていくという経験を積むことも大切です。

 私は縁あってここ明高で4年間校長として勤務しました。明高生一人一人がこの「グリッド」を最後まで貫けたら、様々な面でもっと伸びていたのではないかと思うことが多々あります。特に、進路面で諦めが早かった人、安きに流れてしまった人が少なからずいたように感じています。

 皆さんには無限の可能性があります。それを切り拓くには、先ずはできそうなことから、そうせざるを得ない状況を作り、一歩前に踏み出し、失敗しても、最後まで諦めず努力を継続してやり抜くこと、この経験を繰り返して習慣化していくことが肝要です。明高生全員が「やり抜く力」、「グリッド」をぜひ身につけてほしいと願っています。

 3月17日に第3学区複数志願選抜の合格者発表がありました。その1ヵ月前には理数探究類型特色選抜と美術科推薦入学の合格者発表がありました。親子で歓喜する姿、涙する姿を目の当たりにして、私も胸が熱くなりました。皆さんにもそんな瞬間があったはずです。

 明高に入学して、1年、あるいは2年が経とうとしていますが、入学した時の「よし、明高で頑張るぞ」という決意を今も持続し、やり抜いていますか。目標に向かって邁進し続けていますか。夢を追い求め続けていますか。自分自身に問いかけてみてください。

 1年前、2年前の合格者発表のあの瞬間を思い起こし、楽な方に逃げず、初心に返って学び続けてください。

 令和5年度の皆さんの飛躍と成長を期待しています。

 最後に、明日から春休みですが、皆さん一人一人が新型コロナウイルス感染予防に努めてください。

卒業式式辞

 「春がすみ とほくながるる 西空に 入日おほきく なりにけるかも」

 大正から昭和にかけて活躍したアララギ派の歌人、斉藤茂吉は、春の訪れへの喜びと、その美しい光景をこのように詠んでいます。自然の営みは実に確かで、ここ自彊が丘の木々も生命の兆しを内に抱き、教室の窓から見える瀬戸内の波の煌めきもその輝きを徐々に増して、春がすぐそこまで来ていることを感じさせます。

 本日は、同窓会長様、PTA会長様、保護者の皆様のご臨席を賜り、このように厳粛に本校第七十五回卒業証書授与式を挙行できますことに心から感謝いたしますとともに厚くお礼申し上げます。

 七十五回生の卒業生の皆さん、ご卒業おめでとうございます。ただ今卒業証書を授与いたしました三0九名の皆さんに、本校教職員を代表して、心からお祝いを申し上げます。

  「Persistence pays off」、この言葉は七十五回生の学年通信のタイトルです。「継続は力なり」、この言葉に込められた櫻井寛員学年主任はじめ、学年団の先生方の思いを受け止め、「一緒に卒業」「大丈夫」と皆さんに寄り添い励ます学年主任の言葉で、何事にも諦めず挫けず努力を継続して、見事その期待に応えてくれました。皆さんのその妥協を許さず粘り強く取り組む姿、その溌剌として全力で躍動する姿は、確と私の目に焼き付いています。

  さて、現代は「人新世」と言われ、世界は気候変動、人口問題、新型コロナウイルス感染という多くの課題を抱えています。卒業生の皆さんが明高に合格したまさにその年、パンデミックが襲いかかって入学が2ヶ月遅れとなり、多くの制約を強いられた中での高校生活となりました。そして、それは例外なく全世界を覆い尽くし、社会は大打撃を受けています。さらに、アフガニスタンやウクライナに見られるように何の罪もない人の尊い命が危機に晒され、世界の平和が脅かされる状況に私たちは向き合っています。

 一方で、これからの世界には、こうした課題とともに、人が切り拓く新たな知的・情的世界への大きな希望もあります。例えば、「情報通信・AI・ロボット技術の進歩」、「宇宙や生命の起源の解明の進歩」とともに、「人類が宇宙へ気軽に行ける時代の到来」、「国連が提唱するSDGsのような自然界とも融和した社会体制の提案」等、グローバル化時代、情報化時代にあって様々な新しい価値の創造が期待されます。

 このように、激動で(Volatility)、不確実で(Uncertainty)、それらが複雑に絡み(Complexity)、しかも曖昧である(Ambiguity)という、「VUCA=ブーカの時代」、また、「コスモロジー」と言われる、世界における人の立ち位置が不透明な時代にあっても、皆さんには自分の拠って立つ基軸を見失うことなく、地に足を据えて生き抜いてほしいと思います。その意味において、今後特に大切にしてほしい三つの基軸を皆さんに伝えて餞別にしたいと思います。

 一点目は、挑戦する勇気を持ち続けてほしいということです。

 「事の成否は『なりたい』ではなく『なってやる』という強い意志である」という毛利衛氏の言葉を私が耳にしたその五年後、彼は勇気を持って挑戦し日本人初の宇宙飛行士となりました。「今の若者は、夢の実現に手をつけず、失敗という結果を畏怖ばかりしている」とも語っていました。成功は如何に上手くやったかではなく、失敗から何度立ち上がったかです。誤つことのない人は、何事もなさない人です。挑戦が経験となって視野を広げ、自己の成長に結実して新しい自己が形成されます。一回性の人生に悔いを残さないためにも、挑戦する勇気を持ち続けてください。

 二点目は、世のため人のために生きてほしいということです。

 どんな仕事でも、世の中の人々が求めていないものは成立しません。それが世の中にとって必要であるからこそ成立するのです。「義利合一」という概念がありますが、世のため人のためという「義」を軽んじ、拝金的に「利」をのみ追求した人や企業は淘汰されることは過去の歴史が裏打ちしています。実業家で、伊藤忠商事元会長の越後正一氏は「大切なことは、世の中にやらせてもらっているこの仕事を、誠実に謙虚に、そして熱心にやることである。世の中の求めに、精一杯応えることである」と語っています。世のため人のために生きているか、自己を顧みることを忘れないでください。

 三点目は、感謝の気持ちを持ち続けてほしいということです。

  時に厳しく諭し、時に温かく見守ってくださった先生方、三年間ここ明高で同じ時空を共有し、悲しみは半分に、喜びは何倍にもしてくれたかけがえのない七十五回生の仲間、いつも大きな愛情で包み、陰から支え応援してくれた家族、PTA、同窓会、そして地域の方々。皆さんが今日、卒業の日を迎えることができたのは、もちろん、皆さんの弛まぬ努力によるのですが、その裏にはこうした多くの方々の励ましやご支援があったからこそです。「感謝の心が高まれば高まるほど、それに比例して幸福感が高まっていく」と言ったのは松下幸之助氏ですが、感謝の気持ちを決して忘れず、心豊かに生きてください。

 保護者の皆様に、この場を借りまして一言申し上げます。この三年間、本校の教育方針に、またコロナ禍にあって感染症対策にご理解とご協力を賜りましたことに、心より感謝とお礼を申し上げます。お子様は、大きく、立派に成長され、今日この学び舎から巣立っていかれます。この十八年間、言葉には尽くせぬほどのご苦労があったこと、また春から親元を離れていくことに一抹の不安と大きな寂しさを感じておられることと推察いたしますが、今日この日を迎えられ、心からお慶びとお祝いを申し上げます。今後とも引き続き、本校に対して変わらぬご支援を賜りますようお願い申し上げます。

 最後になりましたが、不思議な縁でここ明高に集い、ともに育くんだ建学の精神「自彊不息」、校訓「自治・協同・創造」の気概、そして、校歌にある「集え・競え・誓え」の気炎。これらを深く胸に刻んで、皆さん一人一人の活躍が母校の喜びや励みになることを、そして七十五回生全員の力になることを忘れず、命を大切に、自信と誇りをもって、悔いのないすばらしい人生を歩んでいかれることを祈念します。

 「別れては ほどをへだつと 思へばや かつ見ながらに かねて恋しき」

 卒業生の皆さんに限りない惜別の思いを残しつつ、その洋々たる前途を祝して、式辞といたします。