【校長室より】第73回卒業証書授与式 式辞
式 辞
玄関脇に植えられた白梅が、例年よりも早く 満開の花を咲かせています。本日、第七十三回卒業証書授与式を挙行いたしまところ、武陽会副理事長様、PTA会長様、におかれましては、ご多忙にも関わりませず、ご臨席を賜り厚くお礼申し上げます。また、保護者の皆様には卒業生の門出を 祝うため、ご来校いただきに誠に有り難うございます。心より感謝を申しあげます。
ただ今、卒業証書を授与した309名の皆さん、卒業おめでとうございます。
本日めでたく卒業の日を迎えられたこと、心よりお祝い申し上げます。3年間の努力と精進に対して心から賛辞をおくります。皆さんは、平成30年4月の入学から今日まで、兵庫高校生らしく 勉学に、学校行事に、部活動などに果敢にチャレンジし、活発に活動してきました。あっという間の3年間で、まだ実感は湧いてこないかもしれませんが、皆さんの凛々しい表情から成長ぶりが伝わってきます。
さて、世の中は依然として厳しい情勢が続いています。新型コロナウイルス感染症の大流行など新たな 感染症との戦いも始まりました。昨年8月には九州・中国地方を中心に、河川の氾濫や土砂災害等により 大きな被害が出ました。先日2月13日には福島、宮城を中心に東日本大震災の余震とみられる震度6強の地震が発生し、感染拡大時における避難住民の安全確保など、困難な危機対応が現実のものとなりました。
海外ではアメリカ大統領選挙でバイデン氏の勝利が確定し、ヨーロッパではイギリスがEUを正式に離脱、一方、アジアに目を向けると、ミャンマーにおける軍事政権クーデターの発生など、政治や経済で緊張が続き、地球環境では温暖化が年々深刻化しています。
特に新型コロナウイルス感染症への対応については、緊急事態宣言による度重なる行動制限、「三密」の回避、ソーシャルディスタンスの確保、手洗い、マスク着用など、新しい生活様式の普及をはじめワクチンの接種開始など感染防止対策に一定の成果はみられるものの、いまだに世界中で猛威を振るっています。我が国では感染者約43万人、死亡約7,700人、世界規模では感染者約1億1,210万人、死者約259万人となり、まさにパンデミィック、未曾有の感染拡大となりました。
本校では、昨年3月2日から5月末まで約3ヶ月にわたり臨時休業となり、恒例の新入生歓迎遠足、文化祭、対神戸高校春季定期戦、合唱コンクール等、1学期の行事をやむなく中止しました。行事を計画していた生徒会執行部、文化祭実行委員など、さぞかし無念であったことでしょう。運動部においては、全国高校総体の 中止を受け、県高校総体の夏季競技が中止となりました。文化部においても、各大会やコンクールが中止されました。特に73回生の皆さんにとって、最終学年の締め括りとして成果を発揮する機会を失い、本当に残念な事態になりました。
その後、6月15日から通常の教育活動を再開し、 7月31日に1学期終了、授業確保のため夏季休業を短縮して8月17日に2学期を開始しました。2学期当初は、新型コロナウイルス感染症と 暑さとの戦いでした。エアコンが不調になるほどの酷暑の中で、マスクの着用を続けながらよく乗り切ってくれました。
県内の感染状況も落ち着いてきたことから9月17日に、今年初めて全校生徒が一堂に会し体育祭を実施しました。生徒が全力で競技する姿は清々しく頼もしく、3年生ここにありと印象付けてくれました。そして10月恒例のUSJ校外学習では、皆さんの適切な行動、保護者のご理解、先生方の周到な準備のおかげで、多くの思い出を残すことができました。また、10月28日には「三密」回避のため、神戸総合運動公園で対神戸高校秋季定期戦を実施しました。
このように年度後半は、様々な行事が概ね天候にも恵まれて滞りなく実施できたことを生徒諸君とともに喜び感謝したい気持ちでいっぱいです。皆さんも、勉強や部活動ができることの「ありがたさ」を、身に染みて感じた人も多かったのではないでしょうか。
73回生は「責任ある自由」を育くみ、真の兵庫高校生へと成長していきました。112年の伝統を誇る本校の偉大な先輩方にも劣らぬ高校生活を全うした皆さんに改めて敬意を表します。
作家の城山三郎氏は、著書「少しだけ、無理をして生きる」の中で、次の三つの努力の積み 重ねが道を開くことに繋がると述べています。
1つ目は、「いつも初心を忘れず、今に安住せず、人から受信し吸収しようとする生き方」が 大切であることです。今、NHK大河ドラマの主人公として描かれている渋沢栄一氏が、「持ち前の好奇心で逆境に置かれても逆境を意識する暇がないほど取りつかれたように勉強し提案する。全身が受信機の塊のようなもので、このことが地方の一少年を日本最大の経済人にした要因である。」と述べています。人が成長するかしないかは、出会った人や経験から、何かを学び取る力があるかどうかが大きい。学ぶ力があるとは、学ぼうという謙虚さがあるということに他なりません。謙虚さを持っている人は何事も学び自らを鍛えていくことができるようになります。
2つ目は、人間を支える3本柱、「自己(self)」 「親近性(intimacy)」「達成(achievement)」をバランス良く保つことです。「自己」は自分だけの世界で、読書、音楽 鑑賞、絵画や書道、座禅に取り組むなどがそれにあたります。個人だけで完結する世界、思索をめぐらすこと、趣味など、一人ひとりの世界を大切にするということです。「親近性」は親しい人たちとの関係のことで、我われは、夫婦や子、親しい友人、古い友人、親近者たち、地域の仲間によって支えられています。「達成」は目標を立てて行動することです。大学でこんな研究をしたい、社会に出てこんな 仕事をやりたい、あるいは趣味の世界でも構わない。目標や段階を作って挑んでいくことです。3つの柱のうち、1本の柱だけに頼っていると人は弱く脆いものです。1本だけの柱が折れてしまうと、なかなか立ち上がることが出来なくなります。 我われは、とかく仕事や趣味の目標達成ばかりに気をとられがちです。「個人だけで完結するひとりの世界」や「親しい人たちとの関係」を大切にして、3本柱のバランスを保って欲しいと思います。
最後3つ目は、ほんの少しでも高い目標を設定して「少しだけ無理をしてみる」ということです。自分を壊すほどの激しい無理をするのではなく、 少しだけ無理な状態に置ことで、大きな実りをもたらしてくれます。このことを、周りの人との交流において考えると、人には好き嫌いの感情があり、それを克服することは簡単ではありません。好き嫌いは人間が持って生まれた自然の感情なのでそれに逆らうには我慢がいります。我慢は苦痛ですが、それは目先の苦痛で、長い目で見れば大きな何かを得ることが出来るものです。なるべくその人の長所を見て、欠点は許し、少し無理をして相手を受け入れることでその人もこちらに一目を置いて信頼してくれる。渋沢氏は、自分の前に座った人にすべてを傾けて応対したといいます。このことにより、パリ万博から帰国後にも活躍する場を与えられたのです。いろいろなことが上手く進めば自分の人生は大きく広がります。
皆さんはこの先、新たな進路において高度な専門性を身に付け、意欲的に研鑽を積まれることでしょう。これからは、日本中、いや世界中の優れた人材と協働することになります。その時には自信を持って、自分の道を究めて欲しいと願っています。
保護者の皆様、お子様のご卒業、誠におめでとうございます。教職員一同、力をあわせ、お子様の教育にあたってまいりましたが、至らぬことも多く、ご迷惑やご心配をおかけしたことも度々であったと存じます。本校の教育方針をご理解いただき3年間ご協力、ご支援を賜りましたことを改めまして心よりお礼申し上げます。お子様が健康で社会に有為な人となられることを切にお祈りいたしますとともに、今後も、本校への変わらぬご交誼とご鞭撻をお願いいたします。
卒業生の皆さん、 壁に直面した時は自ら行動して乗り越えてください。健康にはくれぐれも留意し、自分のため、家族のため、さらに世のため人のため、そして、君たちの後に続く後輩たちのために大いに活躍されることを期待してやみません。
名残は尽きませんが、73回生、108陽会の 前途に幸多かれと、心よりお祈りしつつお別れ いたします。
これをもって式辞といたします。
令和3年3月1日
兵庫県立兵庫高等学校長
升 川 清 則