【校長室より】令和2年度3学期終業式辞要旨
朝夕は冷えるものの、一雨ごとに春らしくなってきました。
校内の桜もチラホラ花を咲かせ始めました。
全国一斉休校から始まった令和2年度も本日で3学期の終業式となりました。
生徒が一堂に会することは叶いませんでしたが、無事に本日迎えられたことをうれしく、そして大変ありがたく思います。
さて、先日の進路講演会では、本校の卒業生である株式会社ダイヘン取締役社長の田尻哲也氏にご講演をいただきました。皆さんも感じることがたくさんあったことと思います。講演後の「印象に残った本」との質問に対して、田尻氏は、池井戸潤さんの「下町ロケット」そしてケストナーの「飛ぶ教室」をあげられました。下町ロケットはテレビドラマにもなった作品で見た人も多いと思います。
「飛ぶ教室」は1933年に刊行された児童小説で、第一次世界大戦後のドイツのとある寄宿学校の寄宿舎で生活する高等科1年生、日本の学校では中学2年の少年たちが描かれています。「飛ぶ教室」は、物語の内容もさることながら作者ケストナーによる前書きが素晴らしいことでも知られています。
そこには、「大人というものは、どうして自分の子供のころのことを、あんなにすっかり忘れてしまうのだろう。子供にだって時々悲しいことや、不幸せなことがあるということが、いつか、まるっきりわからなくなってしまうなんて。」「この世で大切なのは、何が悲しいかということではなくて、どんなに深く悲しむかということなのだ。子供のなみだは、大人の涙より、確かに小さくない。結構、目方が重い場合がずいぶんある。」と、子どもの時に感じたものをいつまでも大切に覚えていてほしいと示されています。
また、「人間がこの世で、本当に真剣に考えなければならない、大切な問題は、働いてお金を儲けるようになってから、やっと始まるのではない。それからはじまるのでもなければ、それで終わるものでもない。」「諸君はできるだけ幸せであってほしいのだ。そして、元気で、小さなおなかが痛くなるくらい笑ってほしいのだ。」「ただ、お互いに何事もごまかしてはいけない。また、何事もごまかされてはいけない。災難をじっと見つめることを学ぶのだ。何かうまくいかないことがあっても、恐れてはいけない。運が悪くても、がっかりしてはいけない。元気をふるい起すのだ。心にたこをこしらえるのだ。」「そうしないと世の中にでて、その中のパンチを初めてほおに受けたとき、諸君はグロッキーになってしまう。」「だから元気を出すのだ。たこをこしらえるのだ。初めにその用意が出来ているものは、もう、半分勝ったようなものだ。そういう人間は、いくらほっぺたにありがたくパンチを頂戴しても、普段から物事に動じない心構えが十分にできているため、いざというときに、あの二つの大切な性格、つまり勇気と賢さを実地に示すことができるからだ。」と読み手を激励しています。
皆さんは、今まさに、勉学に、学校行事に、部活動に取り組み、時には迷い、悩みながら「心にたこ」を作っている真っ只中にあるのではないかと思います。今感じている喜びや苦しみ、悲しみには、田尻氏がおっしゃっていたように、「人生にとって不可欠なもの」がきっと隠れている。そして「周りの人々の自分への想い」を大切にする姿勢で過ごせば、小言や説教や面倒な依頼もきっと自分の血や肉にかわり、少々のことではへこたれない自分に成長していけるのではないかと思います。
心がけを少し変えると、自分でも驚くほど大きな良い変化に気づくことが出来ます。勉強も、部活動でも、「これくらいでいいか」と「今、この場所」に安住せず、少しだけ無理をして身近なところから一歩踏み出し、さらに高みを目指して欲しい。1年後、2年後、さらに将来「みんなの幸せの一端を担い」そして「世のため人のため」に活躍する自分を思い描いて過ごしてほしいと願っています。
新型コロナウイルスとの闘いは完全に収束するまでもうしばらく時間がかかりそうです。それまで、健康にはくれぐれも留意して行動してください。
みんなで元気に新学期を迎えましょう。
その名ぞ兵庫 わが母校
以上、第3学期終業式辞とします。
令和3年3月23日
兵庫県立兵庫高等学校長 升川 清則