校長室より

あなたも英語がペラペラに

あなたも英語がペラペラに

 生徒の皆さんは、英語が好きですか、得意ですか。実は日本という国は明治時代以降、英語には苦しんできています。大学で英語を教えていた、明治時代の文豪である夏目漱石も、留学したイギリスのロンドンでは、会話で苦労してノイローゼ気味になっています。なぜそんなに英語の習得に苦労するのでしょうか。今回は少し長い文章になりますが、頑張って読んでみて下さい。

 2020年12月に出版された岩波新書「英語独習法」をもとに、考えてみましょう。著者の今井むつみさんは、英語の先生ではなくて、認知科学が専門の先生です。認知科学というのは、人の知覚、記憶、思考や学習の仕組みを心と脳のさまざまなレベルで理解しようとする学問で、英語に限らず、他の分野の学習についても応用できます。

 「わかりやすく教えれば、教えた内容が学び手の脳に移植されて定着する」という考えは幻想であることは認知心理学の常識である。なぜかというと、先生がいくらわかりやすく教えたとしても、それが生徒の期待と一致しないもので、生徒が別の情報を期待していれば、教えられた情報に気づかずに受け流してしまう可能性が高いからである。

 英語の学習に必要な概念は「スキーマ」である。スキーマというのは、氷山の水面下にある、非常に複雑で豊かな知識のシステムである。スキーマは、ほとんど言語化できず、無意識にアクセスされる。英語母国語話者は小さい頃からこの英語のスキーマを無意識のまま身につけている。この例として、可算名詞と不可算名詞を取り上げよう。

 英和辞典で名詞をみると、数えられる名詞(可算名詞)と、数えられない名詞(不可算名詞)の区別が書いてある。例えばwater(水)やmilk(牛乳)は液体なので、数えられない名詞であることはすぐにわかる。しかしfurniture(家具)やjewelry(宝飾品)が数えられない名詞である(a furnitureとかfurnituresとは言わない)と聞くと「えっ、なんで」と思ってしまう。これはfurnitureという言葉が「家具」という概念を表す言葉なので不可算名詞であり、家具の範疇に入る具体的な「机」「椅子」「ソファ」などは当然可算名詞になる。このように英語が母国語の人たちは、furnitureという単語が不可算名詞であることを、スキーマとして理解している。日本語が母国語の者は、日本語のスキーマを持っているので、そのスキーマでは、なぜ英語では家具が不可算名詞であるのか理解できない。おまけに、高校の英語教育の現場では「furnitureやjewelryなどは例外的に不可算名詞だから、とにかく暗記して」と言われることが多い。そうすると生徒は、例外だから暗記して、は右から左にスルーしてしまい、思い込みは直らないのである。

 ということで、日本語母国語話者があまり努力もせずに、簡単には「英語がペラペラ」にはならない。他の学習と同じように、どれくらい英語が使えるようになるのか、その目標を立てることが大切である。普段の生活での会話で意思疎通ができるレベルを目指すのか、英語で論文が書けるようになるレベルを目指すのかで、当然学習内容やかける時間も変わってくる。ただ、やはり基本的な語彙や発音、文法の知識は必要である。その上に英語のスキーマを身につける必要がある。これはなかなか大変であるが、方法がないわけではない。

 これ以上書くと、著者の今井むつみさんに叱られそうなので、この後は書籍を購入して読んでみて下さい。「あなたも○○で英語がペラペラに」とか「あなたも○○で痩せました」などは、眉唾ものです。そんなに簡単なものではありません。物事を簡単にしようとするなら、元旦に播但線に乗らず、ガソリンを満タンにして、淡々と先端の分担にチャレンジしましょう。