校長室より

高級語彙

高級語彙

 言語学者の鈴木孝夫さんによると、「日常生活の中で誰もが普通に使う易しいことば」群を「基本語彙」と規定し、「主として学者や専門家が用いる難しいことば」群を「高級語彙」としました。そして日本語に対して、英語の高級語彙は門外漢にはなかなか理解できないと言います。

 例えばagoraphobia(アゴラフォビア、広場恐怖症)という神経症の病名があります。これは本来、広場のような広々とした空間にいると恐怖や強い不安を持続的に感じる病気の事です。この語はagora(アゴラ)という「公共の場」を意味する古代ギリシャ語と、やはりギリシャ語由来のphobia(フォビア)という「恐怖症」を意味する接尾語が組み合わさってできたものです。専門家でない人がそうした古典語の知識や教養抜きにパッとagoraphobiaを示されてもまったく意味が取れません。しかし日本語ならば「広場恐怖症」という字面を見ただけで、大体の意味内容を推測することができます。

 鈴木孝夫さんはこのように述べています。「なぜこのような違いが日本語と英語の間に見られるのかと言えば、それは日本語では、日常的でない難しいことばや専門語の多くが、少なくともこれまでは、それ自体としては日常普通に用いられている基本的な漢字の組み合わせで造られているのに、英語では高級な語彙のほとんどすべてが、古典語であるラテン語あるいはギリシャ語に由来する造語要素から成り立っているからなのである」

 なるほど、その通りなのかもしれません。ヨーロッパでは、大学で一般教養としてラテン語が必修科目だと聞いたことがあります。ただ日本でも漢字を見て、その意味が大体わかるというのは、ある程度の教養が必要になってきているように感じます。日本の小学校でも英語の学習が必修になりましたが、漢字の学習も疎かにしてはいけない気がします。漢字をしっかり学ばないと、園児が返事をせずに、臨時の惨事や珍事が起こり、民事の判事が汝に代わって、点字で印字してしまうかもしれません。