校長室より

桜桃忌

桜桃忌

 6月19日は、作家太宰治の命日で「桜桃忌(おうとうき)」と呼ばれています。この名前は、同郷の作家「今官一(こん かんいち)」によって命名されました。ご存じのように、太宰治は38年の生涯を心中自殺で終えましたが、国語の教科書にも掲載されている「走れメロス」や「斜陽」「人間失格」等の小説で、よく知られた存在です。

 これまで私は、桜桃忌という名前のもとになった「桜桃」という小説を読んだことがありませんでした。他にも有名な作品は多いのに、なぜ桜桃なのだろう、と思っていました。さて、「桜桃」は太宰の死の一月前の5月に執筆された、文庫本で10ページ余りの短編小説です。太宰と思われる小説家の主人公と、3人の小さな子供を抱えた奥さんとの「夫婦喧嘩」の小説です。冒頭は「子供より親が大事、と思いたい」で始まります。晩年の太宰はこうした本来あるべき言葉を「逆に」使用することが多かったそうです。一般的には「親より子供が大事」というべきところです。そして、夫婦喧嘩に耐え切れずに家を出て、酒を飲みに入った店で「桜桃が出た」。そこまでのシーンは、苦しい生活や子供のことが述べられていて、色彩的には、暗い、グレーな感覚が続いていたのです。残り7行となった、最終盤に、桜桃です。そこでパッと鮮やかな色彩が目に浮かびます。ミカンやリンゴではダメだったでしょう。ここはサクランボが相応しい。桜桃によって、キリリと引き締まった感じがする作品になっていると思いました。

 サクランボも応答しないと、高騰して、封筒に入ってしまいます。