校長室より

教養とは

教養とは

 小泉信三(こいずみ しんぞう 1888~1966)は慶應義塾大学に学び、経済学者となり、後には塾長を勤めた人物です。1976年からは慶應義塾大学主催の全国高校生小論文コンテストに「小泉信三賞」があり、私が学年主任をしていた頃に、この賞を受賞した生徒が出た覚えがあります。小泉信三は多くの名言を残していますが、その一つがこれです。

 「すぐ役に立つことは、すぐ役に立たなくなる」

 現代では「ファスト○○」がはやっているようです。ファストファッション、ファストフードは既に有名です。ファスト映画は、権利者に無断で映像や静止画を利用して字幕やナレーションをつけて作った、実際の映画よりも短い動画を指すとのことです。ファスト教養というのもあるそうです。教養とは、すぐに役に立たないが、身につけるためには時間がかかるけれども、長い目で見るとその人の人生を豊かにするものをいうはずです。ファスト教養とは自己矛盾のはずですが。

 テレビニュースなどで活躍している池上彰(いけがみ あきら)さんの本職は、東京工業大学のリベラルアーツセンターの教授ですが、彼こそは「教養」「リベラルアーツ」の大切さを説いています。東京工業大学に入学してくる学生ですから、理科系バリバリの学生がほとんどです。その学生に向かって「教養」「リベラルアーツ」を学ばせる訳ですから、かなりの困難が予想されます。その池上彰さんも、小泉信三の名言「すぐ役に立つことは、すぐ役に立たなくなる」を取り上げています。逆に言うと「すぐ役に立たないようなことを教えれば、生涯ずっと役に立つ」ということです。

 教養は、強要して身につくものではありません。今日用があることが大切です。