塔陵健児のひとりごと
灯油燃焼型火鉢
吾輩はストーブである。名前はまだ無い。
どこで生まれたか、とんと見当がつかぬが、気がつけばこの教室の片隅に置かれていた。
毎年、冬が顔をのぞかせるころになると、誰かが吾輩のスイッチを押しにやって来る。
それが、吾輩の「今年も出番だぞ」という合図である。
ぽうっと灯がともり、芯が赤く染まっていくと、不思議と周りがそわそわし始める。
寒さで縮こまっていた学生たちの肩がほぐれ、
「ストーブ神!」などとつぶやく声が吾輩の金網を揺らす。
吾輩は、ただ温めるだけの存在である。
だが、温かさとは不思議なもので、人の心までほどいてしまうらしい。
試験前のピリピリした空気も、吾輩が灯れば少しばかり丸くなる。
学生たちの手は、吾輩の前で自然と伸び、凍えた指先に命が戻る。
ときどき、「あつっ!」と叫ばれるのは少し心外であるが、
それもまた、吾輩の役目を果たしている証と心得ている。
しかし、吾輩にも悩みはある。
「換気してくださーい!」という声が上がるたび、
窓が開けられ、せっかく満たした温もりが逃げてしまうのだ。
まことに遺憾である。
だが、これも安全のためならば仕方がない、と吾輩は寛大である。
春が来れば、吾輩はまた静かに片付けられる。
倉庫の奥で一年のほとんどを眠る身だが、
それでも人々の冬のひとときを支えられるのなら、本望である。
吾輩の願いはただひとつ。
この冬も、
そなたらが元気に過ごせるよう、黙って、ひとしく、温め続けたいのだ。
——吾輩はストーブである。今日もまた、誇り高く燃えている。
来週からストーブ使用開始です(^O^)/