第36回 卒業証書授与式 式辞
 校庭の木々の芽にも、確かな春の息吹が感じられる今日、この佳き日に、ご来賓の方々、並びに保護者の皆様のご臨席を賜り、兵庫県立須磨友が丘高等学校、第36回卒業証書授与式を挙行できますことは、卒業生はもとより、在校生、職員にとりましても、大きな喜びでございます。
 本日、ご臨席を賜りました皆様方には、平素より、本校教育活動に深いご理解と温かいご支援をいただき、さらには、巣立ちゆく卒業生の門出に華を添えていただきましたこと、心よりお礼申し上げます。
 ただ今、卒業証書を授与しました、232名の皆さん、卒業おめでとうございます。本校の教育課程を修了し、めでたく卒業の日を迎えることができましたことは、一人一人が、3年間、たゆまぬ努力を積み重ねてきた結果であります。その努力に対し、心から賛辞を送ります。
 さて、晴れの日を迎えられた皆さんの胸中には、3年間の学校生活のさまざまな場面が、それぞれの思いをもって、よみがえっていることだと思います。
クラスメイト、部活動の仲間をはじめ、さまざまな出会い・人間関係があったことでしょう。ともに語り、笑い、はしゃぎ、時には涙し、また時には意見が合わず口論したこともあったでしょう。
 皆さん、これらの経験と出会いは、生涯の「財産」です。
 現在、世界の人口が80億に迫ろうとする中、同じ時代に、同じ国で、兵庫県の須磨友が丘高等学校で出合ったことは、決して偶然ではなく、深い「ご縁」で結ばれているということなのです。「大才は、袖触れ合う多生の縁もこれを活かす」という教えがあります・・・江戸時代初期の武将で、徳川家康、秀忠、家光の徳川将軍家三代にわたり、剣術の指導者として仕えた、柳生宗矩(やぎゅうむねのり)の言葉とされ、柳生家の「家訓」となっているもので、大才、大きな才能、優れた才能の持ち主は、偶然、側にいる人と服の袖が触れ合った・・・ただそれだけのことであっても、それは、その人と、産まれる前、前世から何かの「ご縁」があって、この現生で、袖が触れ合ったのだ・・・優れた才能の持ち主は、その「ご縁」を大切にし、活かしているのである、という生き方の教えです。
 人生を決めるのは、人との出会いです。本校で得た「ご縁」、卒業後は、さらに大切にしていってください。
 私も、皆さんとのご縁をいただきました。心を込めて、皆さんへの最後のメッセージ、私の心の、中心にある思いを、三点お話しさせていただきます。
最初にお伝えしたいこと・・・「命」、そして「親孝行」・・・
 今から約137億年前の「ビッグバン」による「宇宙」の誕生、約46億年前に、この「地球」が誕生、その地球上に「命」が誕生したのは、約38億年前だと考えられています。あるとき、全く何もない「無」から、突然、「有」なる「命」が誕生したのでしょうか。この「神秘」を解き明かすことは、容易なことではありません。 
 現在、科学・技術の進歩は、日進月歩、すさまじい勢いです。ちょうど十日前には、アメリカ航空宇宙局 NASAが、昨年七月に打ち上げた火星探査車「パーサビアランス(不屈の精神という意味です)」が、4億7千万キロを旅して火星着陸に成功し、今この時も、探査活動を行っており、生命の痕跡を探しています。地球外「生命」が存在したと確認されれば、大発見であり、生命誕生の手がかりが得られます。また、14年前の2007年11月、京都大学の山中伸弥教授らがiPS細胞(人工多能性幹細胞)の作製に成功したことにより、これまで、手をあぐねていた医療の分野に、次々と希望の光が差し込んでおり、昨年10月には、神戸市立神戸アイセンター病院は、他人のiPS細胞から、目で光を感じる視細胞(しさいぼう)を作り、難病指定されている目の病気で、日本での失明原因の第3位となっている「網膜色素変性」の患者に、世界で初めて移植されました。
 さらに、イスラエルの歴史学者、ユヴァル・ノア・ハラリ氏に至っては、日本では3年前、2018年に刊行された、世界的ベストセラー著書「ホモ・デウス」の中で、AI(人工知能)やバイオテクノロジー(生物工学)の急速な進化など、人類が、歴史上初めて、これまで「神」だけに許された領域に踏み込み、自らを「神」へとアップグレードしている、そして、「老化」と「死」のプロセスが理解できれば、それを操作できると考えられ、少なくとも一部の人たちは死なずに、「神」のように永遠に生き続ける時が来る、とまで述べているのです。
 驚く話ばかりです。
 しかし、皆さん、未だ、「命」を、人工的に、一からつくることに成功したという話は聞こえてきません。
 地球上に「生命」が誕生した、今から約38億年前から、途方もない時間が経過した、今からおよそ700万年前、ようやく、「人類」がアフリカで誕生し、その後、いくつもの種に枝分かれし、誕生と絶滅を繰り返しながら進化してきました。最新の研究によれば、分かっているだけでも、およそ20種もの「人類」が地球上に暮らしていたと考えられています。時には複数の人類種がすみわけて共存し、あるいは熾烈(しれつ)な生存競争を繰り返していたと考えられています。
 そして、その進化のバトンを受け継ぐ、最終ランナーとして登場したのが、私たち・・・ラテン語で、「賢い人間」という意味をもつ「ホモ・サピエンス」です。やがて、ほかの「人類」は全て絶滅し、「ホモ・サピエンス」は地球上で唯一の「人類」として生き残ったわけです。
 ・・・この壮大な時間の流れの中で、幾世代にもわたり、「命」の炎が一度も途切れることなく連綿と続き、皆さんは、十数年前に、この世に生を受けられました。皆さんの身体の中には、幾百万、幾千万という、ご先祖の連綿たる「命」の炎が燃えているのです。
 また、皆さん、今朝、何を食べられましたか?昨夜は何を食べられましたか?
かわいい牛の「命」を、 豚の「命」を、鶏の「命」を、元気に泳ぐ魚の「命」を、野菜もすくすく育ち、確かな「命」を持っています。数えきれない数の「命」をいただいて、私たちは、今、ここに、自らの「命」を維持できているのです。私たちの「命」の中に、無数の動植物の、尊い「命」が内在しているのです。
 皆さんの、身体の中で燃える、幾千万もの、ご先祖の連綿たる「命」と、動植物からいただいた「命」への感謝を思えば、軽々に、「死にたい」「生きたくない」など、言えるはずもありません。自分の「命」は、既に、自分だけの「命」ではないのです。全力で、感謝の心で、天寿を全うすることこそ、受け継ぎ、いただいた尊い「命」に報いる、唯一の道ではないでしょうか。
 “最大の親不孝”は、この「命」を、ご両親、保護者より先に失うこと、そして、“最大の後悔”は、この世のステージに立たせてくれたご両親、保護者の方に、孝行、恩返しできていない内に、ご両親、保護者を失うことです。
 皆さん、今日は、大きな親孝行、家族孝行をしています。孝行を重ねてください。人類最大の愛情とは、「親」から「子」に注がれる愛情です。
 明治維新の精神的指導者で、山口県、萩市に開いた私塾・・・6年前、2015年に世界遺産にも登録されました「松下村塾(しょうかそんじゅく)」において、後(のち)の明治維新で重要な働きをする多くの若者に思想的影響を与えた、かの「吉田松陰」も、「安政の大獄」により、29歳の若さで処刑されるとき、「親思ふ 心にまさる親心 今日のおとづれ 何と聞くらん」と、とても親孝行であった吉田松陰でさえ、「私が親を思う心よりも、私を思いやる親の気持ちの方がはるかに深い。私が、処刑されたと親が聞けば、どれほど悲しむことだろうか」、という歌を詠んでいます。
 皆さん、時々、古いアルバムを開いてください。ご両親、ご家族の方々が、皆さんの誕生、そして成長を、どれほど喜んでこられたか、皆さんが、どれだけ多くの愛情を注がれてきたかを知ることができるでしょう。
 高校入学後も同様です。合格を一緒に喜んでくれ、そして、通学路は安全だろうか、新しい友達はできたかな、クラスには馴染めているだろうか、部活動は順調だろうか、雨が降れば、傘を持っていったかを心配し、帰りが遅ければ、事故に巻き込まれてはいないかを、口数が少ない時には、学校でいやなことでもあったのかと、また、友達の多くが買ってもらっている物があると聞かされれば、同じように買い揃えてくれたこともあったでしょう、学年が上がれば、成績はどうだろうか、進路は希望通り決まるだろうか・・・毎日毎日、「人としての道を外していないか」、「人様に迷惑をかけてないか」、「外で恥をかいていないか」・・・皆さんのことを見守ってきてくれました・・・あたりまえのことではありません。「有り難い」ことなのです。
 ご家族の方々に、この人生の大きな節目で、深い感謝、「ありがとう」の気持ちを、どのような形でもかまいません。必ず、伝えてください。
 次にお伝えしたいこと・・・「運命」そして「人生の目的」・・・
「運命」ということばがあります。最初から誰かにどこかで決められていて、自分ではどうすることもできない・・・このように解釈されてはいないでしょうか。全く逆です。「運命」とは、読んで字のごとく、自ら「命」を「運ぶ」ものであり、「善根は善果を生み 悪根は悪果を生む」・・・善き根っこは、善き結果を生み、悪い根っこは、悪い結果を生む・・・“因果応報(いんがおうほう)の法則”なのです。善きことを思い、善きことを行うことによって、「命」の流れを善き方向に変えることができ、必ずや、幸多き「命」が運ばれる「運命」を得て、真に心豊かな人生が待っているのです。
そして、「人生の目的」・・・「自らの『魂』を磨き、『心』を高め、獲得した力で、世のため人のために役立つ人となる」・・・ここに向かい、突き進んでいってください。
私たちは、自らの存在、発言、行いが、他の人の人生の役に立ち、その人を幸せにすることができたと実感したとき、最大の「幸福感」が得られます。
 「世のため人のために役立つ人となる」・・・この「人生の目的」こそが、実は、私たち自身の最大の幸せ、幸福感につながっているのです。私たち人類は、「利己主義」ではない、他を思いやる、他の幸せを願う「利他の心」を実践することこそが、自らの幸せにつながるよう創られているのです。
 もし、「利他の心」で、世のため人のために力を尽くしたならば、たとえ、突破が難しい局面、難局にぶつかっても、天地から、“目には見えない不思議な力”が与えられ、必ずや、無事、突破できるのです・・・これは、既に私も何度も経験しました。説明のつかない“天佑神助”・・・助けの手が伸びてきます。この世の中は、そのように創られているのです。そもそも、宇宙全体が、“目には見えない不思議な力”によって、見事に調和ある活動が保たれているのです。私たちの「命」そのものが、いくらパーツを寄せ集めても誕生してこない、まさに、「サムシング・グレート」と呼ぶ学者もおられますが、偉大なる存在の奇跡の産物なのです。
 最後にお伝えしたいこと・・・「本物」に向かって・・・
長い人生、「人として正しい道」を歩む中、必ずや、大きな壁、逆境に出会うことがあります。勝負の時です。ここで逃げるわけにはいかない時が、必ず何度か訪れます。
「鍛錬千日之行 勝負一瞬之行」・・・勝負を決する、“一瞬”とも言える、その時のために、“千日”もの、途方もなく長い時間の鍛錬を積む・・・ここで大切なのは、“一瞬”で決する勝負において、「勝つ」ことを信じ求め、“千日”もの鍛錬・努力を継続することそのものなのです。その取組の結果が、たとえ「負け」であっても、鍛錬を継続できた者のみが到達できる領域に入れ、人として、得難く尊いものを獲得できるのです。
フランスの哲学者で高校教師であった、エミール・=オーギュスト・シャルティエ、ペンネームはアランで、著書では「幸福論」が有名ですが、彼は、「ロープウェイで来た人は、登山家と同じ太陽を見ることはできない」と述べています。
洋の東西に関わらず、また、時代を超えて、大切なことは同じであることを確認することができるのではないでしょうか。
 皆さん、「人の価値」というものがあるとすれば、それは一体何でしょうか。「知能」ですか。「学歴」ですか。「職業」ですか。「役職」ですか。「外見」ですか。「財産」ですか。「年収」ですか。
 これだけは間違ってはいけません・・・「人の価値」は、“人として”どうであるのか、その一点のみです。どれだけ、「徳」を積み、人の「喜び」、「怒り」、「哀しみ」、「楽しみ」、「苦しみ」を知り、人に“思いやりの心”を持って接することができる人なのか・・・このものさし、尺度だけは間違ってはいけません・・・花の命が「香り」であるなら、人の命は「徳」の香りでしょう。造花に「香り」はありません。偽物の人に「徳」の香りは漂っていません。「徳」の香る本物の人物、「徳人」となれるよう、確かな歩みを続けてください。
 皆さん、年を重ねる中、時々、自らに問うてください。他人のことを問うのではありません。自らに問うてください。「我は『魂』を磨く日々を過ごしているか?」「我は『心』を高める努力をしているか?」「我は本物か?」
 一度の人生、一度だけのあなたを生きているのです。
 「一沈一珠(いっちんいっしゅ)」、海に潜る海女(あま)さんは、一旦潜ったなら、どんなに息が苦しくとも、一個の「真珠貝」を見つけ出すまでは、決して浮かび上がってきません・・・「覚悟」を持って生きているのです。
 皆さん、どんな「覚悟」を持って、何を見つけ掴(つか)み、歩んでいかれますか。「思い」の方向へ全身の細胞は大きなエネルギーを発揮します。「意識」のパワーは計り知れません。本気の思いは、必ず実現するのです。
 幸いにも、奇跡的に、「人」としていただけたこの「命」、感謝を忘れず、覚悟を持って『魂』を磨き、『心』を高め、“本物”の人物となり、世のため人のために役立つ人生を歩んでください!
 保護者の皆様方、本日は、誠におめでとうございます。高等学校の三年間は、成長・変化の激しい時期であり、お子様の健やかな成長を願って支えてこられた皆様には、さぞや、ご苦労も多かったことと拝察いたします。それだけに、今日の佳き日を迎え、立派に成長されたお子様の姿に、感慨も一入のことと存じます。
 職員一同、心よりお慶び申し上げますとともに、今日まで本校にお寄せいただきました深いご理解と多大なるご支援・ご協力に、改めて感謝申し上げます。
 また、ご多用の中、ご臨席を賜りましたご来賓の皆様には、重ねてお礼を申し上げますとともに、今後とも、本校の教育にお力添えを賜りますようお願い申し上げます。
さあ、卒業生の皆さん、いよいよ出発の時です。自らを信じ、胸を張り、正々堂々と、正面突破で進んでいってください。皆さんの「母校」となる須磨友が丘高等学校は、永遠に、皆さんを見守り、応援し続けます。   
 それでは、希望に満ちた出発の日にあたり、この学び舎を巣立ちゆく卒業生の皆さんの、前途に幸多からんことを、心から祈念し、式辞といたします。
   
令和3年3月1日
    兵庫県立須磨友が丘高等学校長 川崎 芳徳