卒業証書授与式
第75回卒業生の皆さんの高校生活は、新型コロナウイルスの流行と全く重なってしまいました。入学式のあと、すぐに学校は休校となり、六月半ばまでクラスの全員が顔を合わせることができませんでした。文化祭や体育祭などの行事も中止や縮小が相次ぎました。修学旅行は実施できましたが、感染状況が落ち着いた幸運が味方しての実現でした。本当に苦しい三年間でした。それでも精一杯楽しもうとしていた皆さんの姿は、私たちの心の支えでした。
多くのことが、異例づくしの三年間でしたが、異例だから、普通ではないから学べたこともあります。学校でも国でも、未知のウイルスに対して手探りで対応の仕方を検討し、方向性を決定して、事態の打開を図ってきました。何度も繰り返される感染拡大に対応疲れなどもありましたが、それでも懸命に取り組んできました。皆さんも、感染の不安の中でも充実した高校生活が送れるよう、工夫して取り組んできたはずです。
人生において大切なことは、その時々の意思決定、前に進むための「決断」です。平穏無事の時にはそのまま進めばよい。重要なのは、予想もしなった状況でも落ち着いて進むべき方向を決めることです。「決断」と似た言葉に「判断」がありますが、「判断」とは、多くの情報を論理的に整理して、考えを決めることです。「決断」は、とるべき態度や方針、つまり未来に向けてどのように進むかを決めることです。過去の情報では優劣が決められず、判断できないこともあったりします。「決断」において、過去は参考であり、決める根拠は未来への目線です。
新型コロナ対応は、決断の連続でした。この経験は今しかできなかったことであり、五月十三日以降にはもう同じ経験はできません。社会が決断する現場に居合わせた皆さんは得難い経験をしたということです。この経験を今後に生かすかどうかは、皆さんのこれからの生き方にかかわっています。
本校は教職類型を置く学校であり、これまで多くの先生を育ててきました。皆さんの中にも教師を目指す人が何人もいます。人を育てる仕事は個々の人を観察し、それぞれに応じた対応が必要です。一人ひとりの個性を知り、未来の姿を思い描いて進めねばなりません。豊かな判断力と柔軟な発想が必要です。しかし、教師でなくても、皆さんはいつか人を教えたり指導したりする立場になっていきます。皆さんは周りの人々を引っ張るリーダーになっていくのです。社会に出れば、否応なく決断を求められます。政治の世界で、経済の世界で、文化芸術の世界で、教育の世界で、会社で、家庭で。先頭に立って引っ張るのではなくとも、協力しあう中でも、前に進むための決断を求められることはきっとあるでしょう。
私たちの未来は常に不確実ですから、数多の選択肢の中から選ぶ決断をしていかねばなりません。己の進路を決めるときでも同じ。私たちは自分の人生においても決断を重ねるリーダーなのです。決断の正しさは、決断した時にはわかりません。後に評価されることです。しかし決断は躊躇できません。必要な時に必要なことを決めなければ、物事は先に進まず、事態を打開できません。間違っていれば速やかに決断しなおせばよいのです。常により良い方向を探し、未来を見定めて決めていけばよいのです。
正しい決断をするために、必要なことは何か。それは情報です。根拠になるのは、今ある確かな情報です。過去のことを学ぶのです。現在の状況を知るのです。知識の量や内容だけが重要なのではありません。学ぶ経験を積み重ねること、多様な学びを経験することも、決めるためには大事です。知識や経験が役に立つものかどうかは、決断の時になって定まるのです。使わず埋もれる知識もあるでしょうが、一つでも決断に役立つものがあれば、学んだ甲斐があったということです。
学ぶことに関連して、二つ、皆さんに紹介します。
①「新しいアイデアは『本、人、旅』から」
立命館アジア太平洋大学の出口治明学長の言葉です。三年前に脳出血で倒れたもののリハビリに励み、車いすに乗り、タブレットを駆使して、現在も学長として大学経営に力を発揮しています。
「本を読む」ことは、世界を広げるもっとも手軽な手段です。私たちが経験できることは時間的にも空間的にも限られていますから。
「人に会う」ことで、様々な価値観をもつ人と交流することで刺激され、自分の価値観が広がり豊かになります。同じような考え方をする人とばかりいると発想が豊かになりません。
「旅に出る」ことはまさに「百聞は一見に如かず」です。経験したことは私たちの中にしっかりと根付いていきます。本で読み、人から聞いたことも、経験することによってしっかりとした知識になるものです。
②「人間はみな自分の見たいものしか見ない」
今から二十世紀以上前、古代ローマのカエサルの言葉です。科学的にも、自分の価値観に合わせてものを見るのが、人間の脳の構造だそうです。だからこそ、意識して外の世界を見るようにしなければならない。自分の知らない広い世界を意識しましょう。
皆さん、貪欲に学びなさい。学んで世界を広げなさい。人生百年時代と言われますが、常に学び続けるのです、いつか来る決断の時に備えて。知識と経験はいつかあなたを助け、幸せを呼び込み、人々が豊かに生きる未来を創造する力となっていくはずです。
活躍を期待しています。
兵庫県立夢野台高等学校は、大正14年(1925)創立。
創立99年目を迎えました。
100周年 キャッチフレーズ ロゴ 決定しました!
夢の100周年
未来へ蔦(つた)える
夢高キャラクター
「かずらちゃん」
「つたぽん」
気象警報発表時および交通途絶時等の対応 については、 こちら から。