校長室より

2020年9月の記事一覧

理科の散歩道6

砂金掘り ロマンを求めて
 今から約150年ほど前、アメリカ西部で次々に金鉱が発見されゴールドラッシュが起こりました。金はいつまでも変わらないその美しい輝きゆえに多くの人を引き寄せます。「金山を掘り当てて大金持ちに」とはいかなくてもその金が川で簡単に手に入るとなればどうでしょう。何だかワクワクしてきます。私も数年前に川での「砂金掘り」を教えてもらって以来、時々出かけて行くようになりました。
  ただ川ならばどこにでもというわけではありません。砂金が集まるポイントがあります。理想的な場所は大きく川が蛇行しているその内側、そして水面から基盤岩が出ているところです。そういった場所の岩の隙間や草の根っこの砂や泥の中に含まれています。理由は単純です。それは金の比重がとても大きいということです。金の比重は19.3もあります。これだけ大きいと少々のことでは流されません。大雨などで川が増水し、流速が大きくなったときにようやく移動し岩の隙間や草の根っこの中にもぐり込みます。その後、比重の軽い砂や泥はどんどん流されても砂金はしっかりとそこに残ります。それにもともと金はごく僅かしかありません。河口付近にも当然存在するはずですが、そのような場所では大量の土砂に埋もれてしまいとても見つけられません。
 「砂金堀り」は岩の隙間や草の根っこの砂や泥を集めることから始まります。集めた砂や泥はザルでこして、中に入っている小石などを除いていきます。そして残ったものを「パンニング皿」(砂金採集用の特殊な皿)に入れて、ゆすりながらていねいに軽い砂や泥を川の流れを利用して流していきます。この作業を続けていくとやがて黒い砂鉄だけが残ります。砂鉄は砂よりも比重はかなり大きい(約5~6)ですが、砂金の比重はその砂鉄の約3倍です。砂鉄を注意深く動かしていくとその中にじっとして動かない金色に光る砂金が見えてきます。
 直径は0.1mm程度もあればいい方で、長時間の作業でも数粒しかとれません。一日のアルバイト代がこれではとても生活できません。しかし普通の川でも砂金がとれるというのは「ロマン」です。以前、テレビの特番で「埋蔵金探し」をよくやっていました。あの番組のように見つければ大金持ちになるわけではありませんが、全身筋肉痛になりながらも自分で見つけた砂金にはとても愛着を感じます。 
 ただ川には危険な場所も多く存在しています。12年前の神戸市灘区の都賀川での事故のように急に増水する可能性も十分あります。天候にも十分気をつけて、また決して子供達だけで行かないようにして下さい。

理科の散歩道5

オランダの涙   簡単に出来る強化ガラス

  ガラスというと「割れやすいもの」,「壊れやすいもの」というイメージがあります。私もガラスのコップを落として割ってしまうことがよくあります。この欠点を改良して作られたものが強化ガラスです。強化ガラスには次の3種類があります。一つ目は「物理強化ガラス」です。これはガラスが軟らかくなる温度まで十分に加熱し,その後急に冷やすことにより作られます。二つ目は「化学強化ガラス」です。ガラスはその成分中にナトリウムを含んでおり,表面のナトリウムをそれよりも大きなカリウムに置き換えたものです。三つ目は「積層強化ガラス」です。これは性質の異なるガラスを重ねることにより作られています。
  ここで物理強化ガラスを作ってみましょう。材料は並ガラス(ソーダ石灰ガラス)のガラス棒(直径6mm程度)です。必要な道具はガストーチ,水の入った容器,ビニール袋,ハンマー,ペンチです。
 作り方は次の通りです。まず,ガラス棒を水平な状態に固定し,これを横からガストーチで加熱します。一定の速度でガラス棒を回転させ,溶けたガラスがすぐに落ちないようにします。そして十分加熱して真っ赤な状態になったら自然に水中に落下させます。うまくいくと直径1cm程の大きな涙状のかたまりができます。4~5cm程の長いシッポもできますが,これを折らないように十分気を付けて下さい。
 さて,この涙状のかたまりは「オランダの涙」と呼ばれています。何ともロマンチックな名前です。この「オランダの涙」が強化ガラスであるということを実験で確認してみましょう。最初にハンマーで上から叩いてみます(このとき,シッポの部分を叩かないように十分気を付けて下さい)。強化ガラスになっているためびくともしません。次にビニール袋に入れ,シッポの部分をペンチで折って下さい。突然爆発したように,粉々になります。
  この現象は流動性をもったガラスのかたまりが急に冷やされることにより,表面と中心の収縮に時間差ができるために起きます。先に冷えた表面を中心が引っ張りながら収縮するために,表面に多少傷がついても中心が強く引っ張ることにより傷が広がらず,強く割れにくくなります。
  ここで注意することは,熱したガラスは高温であるためすぐに触らないことこと。そしてできあがったガラスを叩く際,くれぐれもハンマーで手を叩かないように,またシッポは必ずビニール袋の中で折って下さい。これらの実験は学校の先生の指導を受けて行って下さい。くれぐれもケガをすることのないように十分気を付けましょう。

理科の散歩道4

硝化綿(トリニトロセルロース)
 マジシャンが炎を吹く場面がよくあります。勢いよく炎が上がると思わず見とれてしまいます。同じように科学実験番組で白衣を着た人が机の上や手の上で勢いよく炎を上げることがあります。よく見ると脱脂綿のようなものに火を付けているのですが、普通の脱脂綿ではあんなに激しく、しかも一瞬では燃えません。これは化学を専門にしている人間には馴染み深いものなのですが、一般の人にとっては不思議な現象です。もちろんこの脱脂綿は普通の脱脂綿ではなく、ある特殊な加工がしてあるものです。この脱脂綿は「硝化綿(トリニトロセルロース)」と呼ばれ、ダイナマイトの成分とよく似ています。作るための試薬は購入する際に特別の許可が必要ですので、家庭実験で簡単に作れるものではありませんが、製法は極めてシンプルです。理科の先生に指導してもらう必要がありますが、濃硝酸と濃硫酸の混合物(混酸)に脱脂綿を反応させた後、よく水洗いして乾燥させると出来上がります。少量の硝化綿でも勢いよく燃えるので、十分注意して扱えば演示実験としてはかなり迫力があります。
 さて、この硝化綿=トリニトロセルロースですが、ダイナマイトの原料の親戚筋に当たります。ダイナマイトはノーベル賞を創設したアルフレッド・ノーベルがトリニトログリセリンから製造した代表的な爆薬です。またトリニトログリセリンは狭心症(心臓病の一種)の治療薬としても使われています。これは心臓を「爆発させる」のではなく、心臓の周りの血管を「拡げる」という効果があります。昔、テレビドラマで狭心症の患者が「ニトロを飲む」というシーンがあり、子ども心に小さい爆発を起こすのかと思い込んでいました。
 毒も薬も使いようですが、ある目的で作られていたものが全く別の用途で効果を発揮することもよくあります。ただ硝化綿は火薬の一種ですので、脱脂綿としての用途には使えません。

理科の散歩道3

相生の松 雌雄同株と雌雄異株
 今は9月ですが、6月といえばジューンブライドです。結婚式と言えば,「高砂や~この浦舟に~」の謡曲「高砂」。
 謡曲発祥地の高砂市高砂神社には「相生の松」が祀られています。今の高砂神社にある相生の松は五代目で、表面をよく見ると、赤っぽいアカマツの部分と黒っぽいクロマツの部分がそれぞれの色でよくわかりますし、Y字型に分かれたところから上の部分はアカマツ、クロマツにそれぞれはっきりと分かれているのがわかります。
 この「相生の松」は、山地に生えるアカマツの種が川の流れに乗って,海辺のクロマツと出合い、たまたま同じ場所で芽を出し、成長するにつれてお互いがくっつき合い、一つの幹のように見えているものです。そして上の部分はY字型に分かれて、それぞれアカマツ、クロマツとして成長しているのです。
 マツは,雄花と雌花が同じ木に咲き、このような植物を雌雄同株といいます。枝の先端には雌花が、付け根には雄花が咲き、風によって花粉が運ばれ受精します。雌雄同株の植物にはクリやクスノキなどもあります。
 雄花と雌花が別の木に分かれて咲く植物もあります。雌雄異株と呼ばれ、イチョウやキウイフルーツなどです。秋,イチョウの木の下にギンナンが落ちていると臭いが大変ですので踏まないように注意しますが,これは雌株だけで雄株ではこの心配はありません。
 高砂の「尉と姥伝説」の伝説では、一本の根から雌雄の幹が左右に分かれた松が生えたと言われていますが,今の「相生の松」は大変珍しい偶然が作ったものですね。
自然の偶然は,夫婦仲良く相手を思い,末永く暮らすという、人と人との繋がりの大切さを私たちに教えてくれています。