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理科の散歩道4

硝化綿(トリニトロセルロース)
 マジシャンが炎を吹く場面がよくあります。勢いよく炎が上がると思わず見とれてしまいます。同じように科学実験番組で白衣を着た人が机の上や手の上で勢いよく炎を上げることがあります。よく見ると脱脂綿のようなものに火を付けているのですが、普通の脱脂綿ではあんなに激しく、しかも一瞬では燃えません。これは化学を専門にしている人間には馴染み深いものなのですが、一般の人にとっては不思議な現象です。もちろんこの脱脂綿は普通の脱脂綿ではなく、ある特殊な加工がしてあるものです。この脱脂綿は「硝化綿(トリニトロセルロース)」と呼ばれ、ダイナマイトの成分とよく似ています。作るための試薬は購入する際に特別の許可が必要ですので、家庭実験で簡単に作れるものではありませんが、製法は極めてシンプルです。理科の先生に指導してもらう必要がありますが、濃硝酸と濃硫酸の混合物(混酸)に脱脂綿を反応させた後、よく水洗いして乾燥させると出来上がります。少量の硝化綿でも勢いよく燃えるので、十分注意して扱えば演示実験としてはかなり迫力があります。
 さて、この硝化綿=トリニトロセルロースですが、ダイナマイトの原料の親戚筋に当たります。ダイナマイトはノーベル賞を創設したアルフレッド・ノーベルがトリニトログリセリンから製造した代表的な爆薬です。またトリニトログリセリンは狭心症(心臓病の一種)の治療薬としても使われています。これは心臓を「爆発させる」のではなく、心臓の周りの血管を「拡げる」という効果があります。昔、テレビドラマで狭心症の患者が「ニトロを飲む」というシーンがあり、子ども心に小さい爆発を起こすのかと思い込んでいました。
 毒も薬も使いようですが、ある目的で作られていたものが全く別の用途で効果を発揮することもよくあります。ただ硝化綿は火薬の一種ですので、脱脂綿としての用途には使えません。