令和2年度2学期終業式 式辞
 皆さん、おはようございます。校長の川崎芳徳です。
 2学期の最終日にあたり、一言ごあいさつを述べさせていただきます。
 3年生の皆さんが、全校生での終業式は、最後となりますこの度も、放送での式となり、大変残念に思っています。
 さて、皆さん、どんな2学期だったでしょうか? 授業ができなかった年度当初の2か月を取り戻すために、1学期の終業式が7月31日だったことに加え、2学期の始業式が8月26日、そしてこのたびの、期末考査の後も、例年であればお昼までの授業だったのが6時間授業を行ったりと、いつも以上に長く感じた2学期だったのではないでしょうか。
 そんな中、コロナ対策に取り組みながらも、授業に定期考査、進路のかかった試験、体育大会、学年企画行事、総合学科発表会、部活動や委員会活動、生徒会活動、文化部有志による「冬の校内祭2020」、デザイン・イラスト展、お弁当・おむすびコンテスト、韓国語でのスピーチコンテストなどなど、実に多くの場面で活躍してこられました。
 皆さんが元気に、堂々と、笑顔で、そして凜々しい表情で活動する姿に、私も大きなエネルギーをいただきました。みんな、本当によく頑張っていると思います。
8月26日の始業式では、「実りの秋」などと表現されるこの2学期の季節、高い「志」を持って熟考し、妥協の無い「目標」を掲げ、“第一歩”を踏み出し行動することが求められる、そして、その“第一歩”では、登山に例えれば、馴染みの六甲山、兵庫県一の標高、氷ノ山、日本一の標高、富士山、世界一の標高を誇るエベレスト、掲げる目標の高さで、必要な“覚悟”言い換えれば、求められる“心構え”が大きく変わってくる、というお話をさせていただきました。
 皆さん、如何だったでしょうか。「目標」を掲げ、それに向けての「覚悟」を持ち行動し、見事、達成できましたでしょうか。
 私は、物事に「覚悟」を持って本気で取り組んだならば、「思いは必ず実現する」と、堅く信じています。真剣に向き合い、“寝ても覚めても”それを思い、全エネルギーを使った取組が為されれば、目に見えない、「天佑神助(てんゆうしんじょ)」と言われる、現在の科学水準では証明できない、非科学的と言われる、「天」や「神」の助けも相まって、その目指すものが実現すると思っています。「たまたまラッキーだった」ということを、よく耳にしますが、それは、決して「たまたま」ではなく、その人の、全エネルギーでの取組が為された結果、天から「ここを登ってきなさい」と、梯子(はしご)が降りてきて、思いが実現するという、確かな「因果関係」があるのだと、心から信じています。
 アメリカ、ペンシルベニア大学の心理学教授で、アメリカにおいて、「天才賞」とも称される「マッカーサー賞」を受賞された、アンジェラ・リー・ダックワース氏という女性は、これを、人生で成功するために必要な「究極の能力:GRIT(グリット)=やり抜く力」だと結論づけ発表し、世界中で注目されました。
 さて、いよいよ年末・年始を迎えます。この機会に、自分自身をしっかりと見つめ、自身と深く対話してください。そして、私たちが、幸運にもいただくことができた、神秘に包まれた、崇高な、先祖から連綿と続く「命」、この最も大切な「命」を営む中で、「私たちは、一体何をしていかなければならないのか」ということに、一度思いを寄せ、考えてみてください。
 そんなとき、人生を歩む中で、道案内をしてくれたり、ヒントをくれたりするのが、「書物」、「本」です。はるかな時を越え、遠く国を越え、私たちに様々な示唆(しさ)を与えてくれます。
 皆さんが、毎朝、静寂に包まれる中、取り組んでいる「朝読」、これは実に素晴らしい取組です。私たちは、毎日、欠かさず食事をとらなければ生きていけないように、実は、「心」にもしっかりと「栄養」を与えなければなりません。それが、「読書」です。どうか、この素晴らしい読書習慣を生涯継続してください。
 先ほどの、「私たちは、一体何をしていかなければならないのか」「何のために生きるのか」「どう生きるべきなのか」ということについてのヒントも、はるか昔、紀元前に書かれた、中国の古典の中に見ることができます。
 皆さんも、聞いたことがあると思います、「四書五経(ししょ ごきょう)」。これは、仏教の「釈迦」、キリスト教の「イエス・キリスト」とともに、「世界三大聖人」と評される、「孔子」が開いた「儒教」において、特に重視されている文献です。
 四書とは四つの書物の書と書きます。「論語(ろんご)」「大学(だいがく)」「中庸(ちゅうよう)」「孟子(もうし)」の4つです。五経は五つの経典(きょうてん)の経と書き、「易経(えききょう)」「書経(しょきょう)」「詩経(しきょう)」「礼記(らいき)」「春秋(しゅんじゅう)」という5つのことです。
 この「四書」の中の「大学」という書物、字は、高校・大学の大学と同じ字を書きますが、古代、人を教育する時の規範を示したもので、そこに、次のように書かれています。
「古(いにしえ)の明徳(めいとく)を天下に明らかにせんと欲(ほっ)する者は、まずその国を治(おさ)む。」
「その国を治めんと欲する者は、まずその家をととのう。」
「その家をととのえんと欲する者は、まずその身を修む。」
この意味ですが、
「昔むかし、自らの徳で人民の考え方や行動に影響を与え、天下を平和に治めようとする者は、まず、その国をしっかりと治めなければならない。」
「自ら、国をしっかりと治めようとする者は、まず自分自身の家や家庭の中を整えることが重要である。」
 「自分自身の家や家庭の中を整えようとする者は、まず、自分自身の心を磨き、身なりを整え、徳のある行動をとらなくてはならない。」
ということです。
 天下太平をもたらし、国を治めるという壮大なことも、まず行わなければならない大切なこと、その本(もと)は、自らの身を修めること、「修身」、自分という人間を高め、仕上げ、心や行動が乱れないように整えること、これこそが、「原点」であると述べられています。
 また、時代を大きく飛び越え・・・20世紀における最重要人物の一人と言われる経済学者の代表的存在である、イギリスのジョン・メイナード・ケインズは・・・不況の時には、政府が公共投資を増やし景気の落ち込みを防ぐことを提唱した「ケインズ経済学」で有名なケインズですが、その最後の著書「わが若き日の信念」の中で、
 It is much more important how to be good rather than how to do good
「いかに善きことを為すかということよりも、より重要なのは、いかに自らが善き人であるかということである」と書かれています。
これらを見ると、時代を越えても、アジア、ヨーロッパと洋の東西に関わらず、大切なことは同じ・・・まず、「自らをしっかり創り上げること」「自らを高めること」であることを教えられます。
 では、「自らを修める」「自らを高める」には、どうすればよいのでしょうか。
 特別なことではありません。
 これは、日々、いただいた「命」に感謝しながら、規則正しい生活を継続する中で、今日という一日、できることを誠実に取り組む。これこそが、唯一の道なのです。具体的に言えば・・・朝、登校した時よりも、成長を遂げて下校する、または、大きな成長のためのブランクと逃げずにしっかり付き合う・・・この積み重ねなのです。一日一日は、決して大きな成長ではないかも知れませんが、3年間で見てください。膨大な学びを得て、夢見ていた進路の実現、部活動では、高校入学後、初心者で始めた競技でも、神戸市一に、兵庫県一に、日本一に、そしてオリンピックに・・・、弾けなかった楽器が弾けるように、踊れなかったダンスが魅力的に踊れるように、迫力の書道パフォーマンスも・・・皆さんの成長は著しいです!
 逆に、感謝の気持ちを忘れ、不規則な生活を繰り返し、毎日、「今日一日ぐらい」という気持ちで、一日を充実させず無駄にする中で、自らを修める、自らを高めることは決してできないのです。
 確かな、意義ある一日の繰り返しを、皆さんに、「孤独に、一人っきりで頑張れ」ということではありません。皆さんは、須磨友が丘で、多くの仲間に囲まれた日々を送っています。
 「利他(りた)の心」・・・A棟2階、3年生の教室の階の防火扉にも掲示されていましたが、利他・・・利は利益の利、他は他人の他です。その逆は、「利己(りこ)」です。利は利益の利、己はおのれ、自分自身です。よく耳にする「利己主義」、これは、自分の利益のみを考え優先し、他人の利益を軽視、無視することです。
 「利他の心」とは、自分以外の他人の利益を重んじ、他人の幸せを願い力を尽くす、ということなのです。 
 考えてみてください。私たちが、何にも代えがたい、本当に幸せな気持ち、真の喜びを感じるのは・・・実は、他の人が、自分の存在や行ったこと、言ったことが影響し、その人が心から喜んでくれ、幸せな状態になったことを知った時ではないでしょうか。
人間の心は、本来、そのようにできているのです。人を憎(にく)み、落とし入れようとして、真の幸せは決して手に入れられないのです。
 他人の幸せを願い、他人の力になろうとすることが、回り回って、自らを幸せにしてくれているのです。
 本校は、「友愛に満ちた仲間が集まる丘」となることを願い、「須磨友が丘」と命名されたのです。事務室前には、3年生のクロスカリキュラムで取り組まれた川柳が掲示されています。
「大好きな 友との出会いをありがとう」ののかさん、
「友高で 良き友できて嬉しいな」奏穂(かなほ)さん、
「友高で 心許せる友増えた」愛(あい)さん、
「友達に いつでも会える友が丘」陽菜(ひな)さん
 読んでいて、心が温まりました。皆さんが、お互いに、友の幸せを願い、協力しあい、その結果、皆が幸せになるということを、ずっと忘れずに過ごしてください。
それでは、明日から14日間、「命」を大切に、我が国のクリスマス、年末、年始の空気をしっかり吸って、家族、友人など、いつも支えてくれている人への感謝を思いながら、令和3年、丑年(うしどじ)のお正月、2021年、東京オリンピック・パラリンピックイヤーを迎えてください。
 1月8日に、元気な皆さんと再会できることを楽しみにして、以上、令和2年度第2学期終業式の「式辞」とします。 

令和2年12月24日 
    兵庫県立須磨友が丘高等学校長  川 崎 芳 徳