校長室だより

2021年2月の記事一覧

2021年2月27日(土) 卒業証書授与式 式辞(令和二年度卒業式)

 卒業証書授与の後、春名校長が式辞を述べられました。
『昨年四月に本校に着任した私が皆さんの前に初めて立つことができたのは、着任から半年後の十月二日の体育祭の開会式でした。今年はまさに新型コロナの一年でした。始業式はすべて校内放送で行いました。マスクでの生活を余儀なくされ、あらゆる学校行事を中止しました。ようやく実施できた唯一の全校行事が体育祭でした。

 三年前の春、本校に入学した皆さんは、校訓「自主自立、質実剛健、友愛協調」のもと、勉学や学校行事、部活動、生徒会活動、ボランティアなどに取り組み、自らの夢や目標に向かって懸命に励んできました。「地域貢献・地域防災・地域活性化」をキーワードに、人との関わりを大切にした地域に関する様々な活動にも取り組んできました。生徒会が主体となって行う文化祭が「南溟祭」と名前も新たに始まったのは皆さんが二年生の時。そのほか全校集会やオープンハイスクール、そして体育祭など、本校では様々な行事が生徒主体で行われてきました。あふれる笑顔で、力いっぱい高校生活を送ってきたことでしょう。しかし今日、マスクをつけた皆さんを前に、私もやはりマスクをつけて立っています。世の中の変わりようは驚くばかりです。

 今年度の最も明るい話題は、大坂なおみさんの優勝だと、私は思います。昨年九月の全米オープンでの二年ぶり二度目の優勝。そしてこの二月、二年ぶり二度目の全豪オープンでの優勝です。彼女はこれまでメンタルに課題があるとよく批評されていました。しかし、この二大大会では、感情をあらわにする場面はあってもそれが尾を引くことはなく、相手に攻め込まれポイントで先行されても常に落ち着いていました。九月の全米オープンの後、彼女は新型コロナの影響で練習できなかった期間を振り返り、その期間が自分の成し遂げたいことや、自分がどのように記憶される人になりたいかなど、色々なことを考える機会になったと言っています。新型コロナウイルスの影響で満足に練習できない期間を、彼女は過去を振り返り、自分を見つめ、前向きな心を作り上げるための期間としたのです。テニスは八割がメンタル勝負と言われます。彼女は自粛期間を活用して自分の心の課題を見事に克服したのでしょう。

 ここ最近の話題に、映画「鬼滅の刃」の驚異的なヒットがあります。映画の大ヒットの背景には新型コロナの不安におびえる私たちの心が関係しているのかもしれません。主人公の竈門炭治郎をはじめとする個性的な登場人物が、得体の知れない鬼に向かいながら、自分の弱さと向き合い、葛藤し、それでも自分を信じ立ち上がろうとする、そのキャラクターたちのあきらめない心が「折れない心」と評され、映画を見る人の気持ちを引きつけていると言われています。

 私は、このどちらにも人の持つ心の強さと弱さの二面が印象的に感じられます。私たちは心が弱ると前向きな判断や行動ができなくなることがよくあります。しかし心は鍛えることができます。前向きな心は自分で養うことができます。炭治郎は、胡蝶しのぶの屋敷から旅立つときに、「全部どうでもいいから」と言い意思を持たないカナヲに対して、「頑張れ!!人は心が原動力だから。心はどこまでも強くなれる!!」と話します。どこまでも強くなれるかどうか、それは私には自信がありません。けれども、私は心を育てるためには、自分の感情に敏感であるべきだと考えています。「喜怒哀楽」という言葉がありますが、私たちは場面に応じて、喜んだり怒ったりと感情を動かしていますが、その感情の動きがなぜ現れたのか、それによって自分がどうなっているのかを探るのです。そうすれば、自分があるべき方向に進むためにはどのような心の動きが望ましいのかが見えてくるはずです。私は、学校行事は心を育てる場だと思っています。しかし今年はその場がなくなってしまった。残念ではありますが、皆さんには経験できなかったという経験から何かを学んでもらいたいと願っています。

 皆さんは今日、高砂南高等学校を卒業し、新しい活躍の場へと旅立っていきます。多くの人と交流しながら己を磨き、夢の実現へと向かっていくことと思います。皆さんには、一人一人が自分の目標を掲げ、夢を持ち、精一杯取り組み、夢や目標を自分のものにしてもらいたいと思います。

 私たち人間は経験を元に物事を考え、学びを深める生き物です。皆さんは先輩たちと同じように、高砂南高等学校でたくさんの挑戦や経験をしてきました。さらに先輩が経験しなかった新型コロナウイルスによる苦しみを経験しました。新型コロナウイルスによって、この一年は高砂南高等学校らしい活動が十分にできなかったけれども、できなかったという経験やそのときに感じたこと、考えたことも皆さんにとっては人生で何か必ず意味を持つものになると信じています。本校でたくさんのことを学び、様々な経験を積んできました。友と競い合い支え合う経験。目標に向けて自分自身を鍛え上げる経験。挫折もあったでしょう。学習を通して身につけた豊富な知識。そしてかけがえのない友達と友情。すべての経験は皆さんの人生にとっては必ず糧になるものです。私たち大人は、近い将来、社会の担い手としての役割を皆さんにバトンタッチします。皆さんそれぞれの経験を生かし、互いに協力して、これから広がる新しい社会を、皆さんにとって、そしてさらにその未来の人々にとっても、誰もが幸福で、生きる喜びにあふれる社会としてくれることを切に願っています。』