校長室より

校長室より

令和5年度 第44回卒業証書授与式

卒業証書授与式式辞(抜粋)

 

 《略》

 

 さて、早春の季節に私たちの目を楽しませてくれるのは、とりわけ梅の花です。梅を詠み込んだ詩歌は数多くありますが、私は高校時代の国語の時間に出会った中村草田男(なかむらくさたお)の俳句を思い浮かべました。それは、

   勇気こそ地の塩なれや梅真白(うめましろ)

という句です。「勇気こそ地の塩なれや梅真白」塩は物の腐敗を防ぎますから、「地の塩」があれば、地上にある物は新鮮に保たれます。それとともに、「地の塩」という言葉は、勇気を持って、社会のために無償で尽くすことの例えでもあります。私たちの住む社会から濁りある物を取り除いて、社会を向上させる規範となることであり、また、そのようなことを行う人のことでもあります。一人ひとりが勇気を持って、みんなのために尽くそうとする気持ちを持たないと社会はしだいに腐っていってしまいかねません。

 この俳句を中村草田男が作ったのは第二次世界大戦の末期一九四四年です。かつての教え子達が成長した後に、まだ学生の身でありながら戦いの火の中へ出陣していかなければならない状況下に置かれたことに際して、無言で書き示したものであると伝えられています。未だに、世界では各国の利害を背景にした核の恐怖や戦争、内戦が行われています。いかなる理由を設けようとも戦争を容認することは出来ません。

 俳人・中村草田男は、「勇気こそ地の塩なれや梅真白」という、わずか十七文字の中に、凜と咲く白い梅の花に託して、社会を正そうとする勇気と、戦争への思いとを表現しているのだと思います。

 卒業生の皆さんには、勇気を持って社会のために尽くそうとする気持ち、無償でみんなのために力を注ごうとする気持ちを持って行動して欲しいと願っております。

 

 《略》

 

 卒業生の皆さん、いよいよ門出です。私たち須磨東高等学校の職員は、皆さんの今後の発展と活躍を心から期待するとともに、それぞれの道を切り拓いて進んでいってくれるであろうことを信じています。皆さんは、大きな夢や希望を思い描いて、それを現実のものにしていこうとする固い決意や強い情熱をもって、それを実現させるとともに、この世界を支える一員として、広く周りの人や社会に貢献する働きも果たしてほしいと願っております。健康に留意し、凜々しく健気に生きていってください。皆さんの前途に幸多からんことをお祈りし、もって式辞と致します。

 

令和六年三月一日

兵庫県立須磨東高等学校校長

   塙  守 久